「…マリナ」
「は、はい……ひゃ、ぁ」
家に入ればまだ両親は仕事で帰って来てないことを確認しマリナに抱き付いた。髪からはふわりと甘い蜜のような香りに思わず抱き締める腕が強くなる、柔らかくって良い香りがして独特のあたたかさが身に染みこむように。目を綴じたら夢でも見ているような感覚。
「ごめん、」
「え、なにを…?」
抱き締めていた腕を放して俺はマリナの右手首を優しく撫でた、少し赤くなっていて、本当に申し訳なくなった。何で俺はこんなにも彼女に対しては自己中心的になるんだろう、いつもだったらある程度の我慢なら出来るはずなのに
「歯止め効かないんだ、マリナといると」
苦笑いした俺をマリナはにこりと微笑んでフィディオだからいいの、家族でしょ?と頭を撫でられた。家族、だから許されたのかと思えば何だか苛立ちも湧いたが撫でられた頭からジンジンと伝わる熱さ、あたたかさ。これがそれを浄化してくれたようだ。
「俺の名前、滑らかに言えるようになったんだね」
「……へ?」
「フィディオ、って」
手の平にそっとキスを添えて今度は俺が微笑めばマリナは真っ赤に顔を染め、硬直したように動かなくなる。その時玄関のドアが開いて母さんが帰って来るなりマリナは慌てて母さんに抱き付いた。マリナどうしたの、ってフィディオまた苛めたの?だめじゃない!と軽く叱られた。可愛い子ほど苛めたくなっちゃうんだよ、と俺が笑えば母さんは程々にするのよ、と怪しく微笑んだ。
「今日はシチューよ」
温かい、普通の日常も満足していたのだけど彼女が来てからもうひとつ、花が咲いたように明るく色付いた気がしたんだ。
vivido
(鮮やかな)
***
101031