彼女は泣いたことがない、と俺が言ったら嘘になるだろう。だって彼女だって人間だ、悲しむ気持ちだって喜ぶ気持ちだってあるに違いない。でも俺は彼女の泣き顔なんて見たことがない。長年一緒に居た、ジャンルカよりもマルコよりもアンジェロよりもずっと、ずっと俺がいちばん長く彼女といるんだってこと。つい最近、いちばん聞きやすそうなアンジェロに彼女の泣き顔を見たことがあるか、と尋ねてみたらあるよ!って笑顔で言った。何だかモヤモヤしてイライラして悔しかったのを覚えてる、後、自分のプライドに便乗してジャンルカにも聞いてみたら俺は写真も持ってるぜ、と流し目で格好付けるもんだから苛立ちは増す。ああジャンルカなんかに聞くんじゃなかった。
幼い時の俺は今までよりもっと無邪気な少年だったから、泣き顔が見たいがために彼女にいろいろと意地悪をしたものだ、例えば彼女が苦手な虫を拾ってきて背中に忍ばせたり、楽しみにしてたケーキを一口で俺が彼女の分まで平らげたり、わざと足を彼女の前に出して転ばせたりとかしたんだけど、それでも彼女は泣かなかった。「本当にあの時のフィディオ意地悪だったよね」、「男としてだめだよな…って、え?」振り向けば仁王立ちしている彼女が遠い目で俺を見ていた。


「ねぇ、いつも優しいフィディオがあの頃いきなり意地悪になったのは何で?」

「それ、は……」

「ただの出来心?」


出来心、そうかもしれないけど。ただあの時だって今だって、興味があるとかないとかで泣かせようとしていた訳じゃないと思うんだ、ただ、知りたくて。でも、何故俺はこんなにも彼女のことが知りたいんだろうか。


「…言えないならいいよ?そんな気難しい顔しないでよ」


ふふふと艶やかに微笑む彼女にクラクラした、いつの間にこんなにも女々しさを増したんだ、こんな風に俺の目には彼女が美しく映っていたかな。「…たぶん」、「うん」ゴクリと喉を鳴らして口を開こうとするのだけれどなんでこんなにも緊張が走るのだろう。試合でもこんなに緊張しないはず、どきどきがわくわくに変わらなくって。どきどきはどきどきのまま


「泣き顔が見たかったんだと思う、うん」

「へ?」

「何で、俺は君の泣き顔を見たことがないんだ?」


ぽかん、と口を大きく開けて疑問符をたくさん浮かべた彼女はやがてぷっ、と吹き出す。「そんなに笑うなよ」恥ずかしくてたまらなかった、俺は勇気を代償にして羞恥を受け取ったんだろう。「あははは、ごめんごめん」お腹を抱えてまで爆笑されて、なんだか情けなくて、穴があったら入りたかった。


「フィディオなんかに弱い所なんて見せたくないわ」

「俺だから見せてほしい」

「理由は?」

「愛してるからかな」


俺が笑顔でそう伝えれば「ほんとばかな人ね」、そう言う彼女の瞳からきらきらした雫が見えた、そっと抱き締めて優しく、出来れば格好良くキスをしてみたんだ。







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castella様にて名前変換version

大変遅くなり、
すみませんそして
ありがとうございました!




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