目線の先は顔を苦くして笑っている彼女が居た、もう何回この表情を見たのだろう。そして俺はもう何回この表情をさせたのだろう。しばらく目を合わせていたら彼女が耐えられなかったのか瞳を濡らした瞬時に後ろ姿を見せて消えていく、俺は無意識に、隣に他の女の子がいたのに関わらず、イタリア男性なら考えられない行動、デートの最中に女の子を放置するなんてのは。だけどそんなのは気にも止めず走る。追いついて細い手首を掴めば彼女は抵抗もせずに立ち止まった。


「…ジャンルカなんて、嫌い、嫌い、大嫌い」

「ごめんって、どうしても断ることできなくってさ」


俺が謝れば彼女は手首にある俺の手を振り払ってキッと睨めば断ろうとなんてしてない癖に、とのこと。それはそうだ、女の子の誘いを断るなんて男が廃る、とか言ったら確実に彼女は俺の顔面でも殴るのだろう。もう一度手首を掴もうとしたら触らないでと睨む瞳を揺らがして反らした。ちくり、やっぱり心が痛む。


「あれ、ジャンルカと……」

「っ、フィディオ!」


たまたま通り掛かったであろう我がチームの副キャプテン、フィディオが買い物袋をぶら下げて俺達を指差そうとする間に彼女はフィディオに抱き付いていて、


「ジャンルカなんて、嫌い、もうやだ、フィディオがいい」


だなんて言うから、とっさに引き離そうとした。けれど俺の手は止まったままでさっきの拒まれた恐怖でも残っているのだろうか、なんて情けない。俺はこの場で何も出来ないのだ、自分の性格上女の子はいつでも隣にいてほしい、だから彼女を恋人という関係を作ったかと思い込んでいたはずなのに、あまりにも彼女の存在は大きすぎて。


「また、やったのかジャンルカ?」


ハァと溜め息。軽蔑、というか呆れられた感じだ。だって今までも何度も何度も同じ痛みを味わったのに懲りずに繰り返し繰り返し。同じものじゃ足りないから、ちょっと摘んだだけ、という行動はやはり認められないのか、人は一途に一定の人物を愛し愛さなければならないのだろうか。
フィディオは彼女にほら、そんなこといっちゃだめだろと宥めれば彼女はゆっくりとフィディオに回した腕を離す、ほんのりと涙の跡が付いていて、また心が痛い、これは彼女を愛しているから?それとも女の子を傷付けた人物のプライドの傷みから?分からないんだ。


「ジャンルカも、分かっているだろう?」


「あぁ」

「君の気持ちだって分からないことないさ、でもジャンルカ、そろそろ認めたらどうだい?」


ニコリと誰もが愛せるような笑顔をフィディオは見せた、何がと尋ねればまた溜め息をひとつ。そして伏し目がちな彼女を引き寄せ抱き締める、唇を近付けたその時にはもう体が動いていて、俺はフィディオを殴っていた。彼女を奪いとり距離をなくしてキスをすれば抵抗していた体も止まる。長く、彼女が窒息しそうなほどまで口付けを交わした、フラリと倒れそうになる彼女を左腕で支えて、我に帰ればフィディオは本気でやらなくってもいいじゃないか、と笑って後ろ姿を見せた。目が覚めたような感覚に浸る、今度フィディオに美味しい紅茶でも入れてあげるとしよう。





essere(存在)














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七三もえ


101030



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