ベンチでひとり、青年達が必死にボールを取り合う姿をただ無心にみつめてた。サッカーっていうスポーツの一種なんだって、あれは。そうやって知らないふりをする私、そんなの知ってるよ私はもう高校生なんだって。あれから私は反省の意を込めてマークの言うことには従った、先に行けと言われれば先に行くし、待てと言われれば待つし人形みたいと分かってても私は逆らえれる勇気は既にカラッポ。私に人影が被り、首を上げると一之瀬がいた。タオル頂戴と言われたから私は一之瀬に真っ白なタオルをひとつ渡す、一之瀬の汗は真っ白なタオルにじわりと吸い込まれていく、とすんと一之瀬は私のベンチの隣に座ればにこりとまた笑うのだ
「マークとはまだこんな調子なのかい?」
『……?まぁ、』
「真面目だよな、アイツも」
一之瀬の言葉に疑問を浮かべながらもスポーツドリンクを口に付ければごくごくと鳴る喉の音、少しだけ何故だか気持ち良かった気がする。遠目越しにマークを見れば悲しくなった、ああもう自分は何なのだろうとまた疑問は増えるのだけれども考えたって答えは見つからない、たとえ見つけたとしても私は行動に示さないのだ、あれ、だ。考えるだけ無駄ってやつ。
「ねぇ、ちょっと手助けしてあげようか」
『……まさか、』
さっきまで良い感じに思っていた一之瀬の笑顔も憎く感じた、この一言で彼は、きっと、私の表しようのない気持ちの名前を知っていることが判明したのだ。
「代償がいるけどね」
『…それでも、いい』
このモヤモヤした自分の気持ちと自分から切り出せないマークの解放をナチュラルに崩せれるのならば、出来れば柔らかく包むように壊したいから。
一之瀬はごめんね、と声にすると私の唇に吸い付いた。瞬時に驚く私だが納得、したかのように一之瀬の背中に腕を回して恋人かのように演じた。横目でマークを見れば唖然と立ち尽くしてる姿が映って、胸が痛くてたまらなかった。
ゆっくりと唇を離せば、余韻が残ってる脳内がぐちゃぐちゃに混ざる、一之瀬はちょっと顔洗ってくるねとベンチから居なくなった。するとマークが段々近付いて来て、逃げたかったのだけど大事なこの代償と引き換えのメインを口にしなければ無駄になるんだ、言わないと。私も、マークも。
「カズヤと、付き合ってたのか…?」
『うんだから、マークはもう私のそばに居なくていいよ』
「……はは、それなら早く言えば良かったのに水臭いな、」
『う、ん……』
あれ、何故だか目頭が熱くなってきてくらくらするのだ。私は息をゴクリと飲み込み衝動を抑えた。素直に、本能的に、今、したい行動はしてはならない気がしたから
「とにかく、おめでとう。」
『……!』
なのに、駄目だった。マークの最後の一言が私を動かしてしまって、目からは水滴がぽろぽろなんて可愛い音とかじゃなくってまるで滝のように落ちる。マークもぎょっとしてあたふたと慌てながらも私に言葉を掛ける。
「な、泣くほど嬉しいのか?」
『っ、く…ちが、うよ……うれしくなんて、ない』
「じゃあ何で…」
『マークが、』
「俺、が?」
『そばに…居なくなっちゃうのが、悲しいから……うっ、く…』
何を言ってるのだろう私は、
意味は、分かってるようでまだ分からない。けれどこれから私はきっと思っていたことを全てぶちまけるんだろう、もう何とでもなればいい。どう思われても良いから私のこのモヤモヤを無くしてよ、ねぇ。
『…何で、何で、優しくするの?親が頼みこんだ責務をまだ根に持っててしてるのならやめてよ……辛いんだよ、優しさが』
「違う、違うんだ。俺はお前の親の責務からとかじゃない、俺は、好きじゃない子にここまで尽くせる奴じゃない、そんなに…お前が思うほど優しい奴じゃない!」
また同情だと思ったから何も隠さず言葉にした、前はこんな事怖くて真実を聞きたくなかったから聞けなかった。言葉の力は弱いようで強いってこと分かってた、今思えば私は分かってても分からないフリをしてばっかりで情けない。やっぱりマークからの返事は怖くてたまらなかったからぎゅっと瞳を閉じた。手が震えて、息も苦しかったのだけど、ね。
「だから、そんな、期待させるような言葉はやめろよ…」
蚊みたいに呟いたマークの言葉、久しぶりに抱き締められた彼の腕の中涙も壊れて落ちました。
ambivalence
(同一対象に対して相反した感情が共存していること。)
***
どうかな、
100926