久しぶりに会った彼女の瞳は真っ黒だった、白がない。ぱちぱちと長い睫を上下に動かしてただ俺を見ていただけ、どうしたの、と右頬に触れてみた。ぴくりと肩が震えたのを見逃せなくて愛してる、と目を合わせて言ったら右目から涙がツーっと伝って地面を潤した一滴できっと花が咲くだろう。見ていられなくて抱き締めた。彼女の体は冷たい、けれど生きてる。心臓の鼓動や呼吸の音楽が伝わってくるから。当たり前の行動が生きてる証拠、目には映らない。
「会いたかった」
どくん、彼女が俺を突き飛ばした。そしてぽろぽろと儚く零れる涙が芽を出して、蕾になって、花になった。雨が止まないそうにない、緑には恵みの雨でも何だか花には哀しそうに見える。こんなにも、いらないってさ。
『傷付くのが怖かった』
膝が崩れ落ちて、駆け寄り、涙を拭う。理由なんてしらない。嫌、そんなのなんてないんだ。
『傷付けるのが怖かった』
だから会いたくなかった、会わなければ良かったんだよ、哀しみに染まった顔にすごく胸がつっかえた、咳をしたい。期待させないでと彼女は叫ぶ、立ち尽くす自分。伝えたい思いが伝わらない、言葉に出来ない。彼女がこんなに枯れ果てるのを見たことが、なかった。違う、彼女は見せることが出来なかったんだろう。初めて見せた君の泣き顔は悲しいくらい綺麗だった。
「ごめん、」
俺だって、胸が締め付けられるぐらいな想いをしたんだ。そう言う俺の顔はとても情けないんだろうな、下を俯いたら彼女は俺のてのひらをぎゅっと握った、ピアノの音が響いた、ぽろん。
『今度こそ、一生繋いでいたい』
離さないで、と涙で腫れた瞳が笑った。花みたいに。ああ彼女は花みたい。
腰に細い腕が回って抱き締められた、俺は後悔はしていないと感じていたはずなのに。
「ごめん、ごめん」
何度も、何度も、君が呆れるぐらい謝るから、喉が裂ける程謝るから、ずっと。
一緒にいさせて
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song
デンドロビウム・ファレノプシス
100821