ぱちり、彼女は瞬きをした。
長い睫が映えるその瞳には疑問が浮かべられていたしばらくするとスケッチブックと黒のマジックペンを取り出し、書いた。
「ああ」
文字を読み取ると私はこくり、と頷いた。彼女はスケッチブックを床に落とす、ガタンと響くのは床の音、何故だか大きく感じる
私が彼女の唯一の会話手段の1つであるスケッチブックを拾い彼女に渡した。しなやかに長い指にトップコートが塗ってある爪。女の風習が感じられる、そんな彼女が 。
それから彼女はひたすら気持ちを紙一枚に書いた
"私でいいの?"
「君がいいんだ」
"私、喋れないのよ?"
「そんなことは知ってるさ」
"私、風介とずっとこんな感じでしか会話できない"
「それがなんだ」
"とても、不便だわ"
「私は全く不便ではないよ」
"なんで?なんで、私なんかが良いの?"
「君を になってしまったから」
"どこを?"
「全て」
"具体的に"
「…分かった」
長いやり取りの後私は彼女の手をそっと持ち上げて軽く口付けをする
「君の手も」
次は足に口付け
「君の足も」
そして咽に口付け
「君の咽も」
最後に
「君の唇も全部」
彼女の綺麗な瞳を見ると涙で潤んでいて、私は追い討ちをかけるようにこう言ったのだ
「愛している」
それから彼女のスケッチブックに書かれたのは同じ一言だった。
きみからの率直な一言。
***
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