ざくり、小さな音が聞こえた
そしたらどろどろどろどろ赤黒い液体が流れ始めてフラッと彼女は私に体を預ける。その体はいつもみたいに温かくも優しさも無くてただひしひしと冷たさが伝わってきたのだ。
赤黒い液体は彼女の血だった、まだ液体は温かい。
体を預けた彼女の血が私に付着し、思わず彼女を突き放した、ああ彼女はこんなにも醜く穢かっただろうか、こんな穢い液体を体内に流し生きていたのかと思うとぞっとした。
『ふ…、すけ』
赤黒い液体のかたまりに透明な雫が一滴。彼女の涙だった、撤回、彼女はこんなに綺麗な液体を流していたのだった、ああ彼女は美しい
『…いたい、よ…いた、い』
ぽたりぽたり、一滴二滴、雫が血に落ちていく
穢く赤黒い液体を必死で麗しくしていこうとする涙の存在理由が分かる気がした、だから憎らしくなった
ざくりざくりざくりざくりざくり!
私はナイフで更に彼女を刺した、痛めた、傷付けた
痛い?私の方が君の何百倍何千倍何万倍と痛いに決まってる。他の奴と話して、笑い、笑顔を向け。そのたびに私は胸をこうして君に刺されたんだ、私が今、君にしてるようにナイフで刺されたんだ
ざくりざくりざくりざくりざくりざくり、ぐちゃり!
刺すたびに君の血が全身に付着したこれは洗えばとれるだろう、だが君に刺されるたびに流れた血は一生とれない、一生付着してとれないのだ。付着したのは私の肌の皮だ。汚れはとれない。漂白剤の海に飛び込んだって決してとれないんだ
君はどうしてくれる、この汚れを
刺すのを止めるともう清くて透明な雫は流れない。ただ赤黒い液体が彼女の体から溢れて徐々に空気に触れて、固まった。私についた彼女の返り血はもう既にとれはしなかった。
人間は所詮こんなものなのだ、刺せば死ぬ。死ねば腐り、それは土となる。
彼女の原型はもう跡形も微塵に横垂れていた
私はナイフをからん、と音をたてて地面に落とす
掌には彼女の血、舐めてみたら鉄の味が広がった、彼女をこうして私に取り込めたのなら後悔はしない。一生、これで誰のものと成らずに消える、そうこれでいいのだ、これが調度いいのだ。
彼女を一生憶えていたのは私、だと。
そっと彼女の唇に触れるだけのキスをした、するとぽたり、彼女の瞳から一粒だけ。
最後の清き雫が赤黒いかたまりに落ちて、
滲んで消えた。
ざくり、ぽたり
***
風介が厨2