はじめは身体だけの関係だった。
私は彼の肉体しか求めないし、彼は私の肉体しか求めない。
それだけの関係。
それ以上にはなりえない。
彼も私も、それがこの関係に至るための条件。
彼には女がいるし、私にも男がいる。
だから互いの欲求不満解消以外では会わないし、求め合わない。
「ねぇ、フランシス」
「なぁに、マドモワゼル」
しかし、この情事後の虚無感と来たら。
「あなたの作ったアップルパイが食べたいわ」
「んー、久しぶりだねお前からその言葉聞くの」
暖かい日差し
彼の匂いと温もりが残る布団
そんな感傷に浸りながら少し布団で惰眠を貪れば、甘い香りが漂う。
「いただきます」
「うん、召し上がれ」
そうやって微笑む笑顔だとか
甘ったるく響くテノールの声だとか
サクッとアップルパイを一口サイズに切って口に運ぶと
鼻いっぱいに広がる林檎の風味に酔いしれて。
あぁ、なんて愚かしい関係。
最悪ね。
林檎の毒に浮かされて
(きっと彼の作るパイに)(騙されてるだけよ、)
気持ちに気付いては、いけないもの。
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