昔から玲莉は本が好きだった。簡単な絵本から、難しい専門書まで。幼い頃から読みふけるような女だった。
「エース!空見て空!アルゴ船座が見えるよ!」
「どこだ?」
「あれだよ。おおいぬ座あたりの…」
「星座で言われて分かるか!」
「仕方ないなぁ…ほら、あの山際あたり。あれが船首で、あそこが帆で帆柱、で、あっちが船尾」
「ふーん…」

 星がきれいに見えるときは、玲莉は建物の屋上で星について教えてくれた。玲莉の話は本で読むより分かりやすく面白かった。
「エース、人って肉体が死んだらどうなると思う?」
「はあ?なんだよ急に。そんなもん知るか。死んだらそれで終わりだろ」
「夢がないなぁエースは。人はね、肉体が死んだら星になるんだよ。星になって、大切な人を照らすの。いつもそばに居るよって」
「昼はどうするんだよ」
「太陽もれっきとした星だよエース」
「う、うるせえ!」
「…もし私が死んでも、私はエースを照らし続けるからね」
「…死なせるか。お前は俺が守ってやる」

 玲莉は海賊が嫌いだった。あいつを嫌っていたというのもあるし、俺が殴り損ねた海賊に追いかけられたことも理由だろう。だから、俺が海賊になるということは、玲莉には秘密だった。
「海賊になるんだって?」
「……ルフィか」
「嬉しそうに教えてくれた」
「玲莉には教えんなっつったのに…」
「エース、陸地の旅と船の旅は違うんだよ?一度出たら…もう会えないかもしれないんだよ?」
「…それでも俺は出る」
「どうして…っそんなことして、もしあいつの子供ってバレたらどうするのよ!」
「俺に父親はいねえ!いるのは母親だけだ!」
「――っエースの馬鹿!もうしらない!」

 玲莉。たった一人の血の繋がった家族。俺の双子の妹。
 玲莉の心配は現実になり、俺は海軍に捕まった。あいつの息子であるがゆえの罪。でも、後悔はなかった。親父やマルコ、サッチ…たくさんの家族ができたから。とても、幸せだった。親父を海賊王にしてやれなかったことと、玲莉にもう会えないことが心残りだが、海軍は俺に妹がいることを知らない。ジジイも玲莉のことは話していないらしい。俺が死ねば、もう玲莉は追われることはないだろう。それなら喜んで罪を背負おう。
 玲莉がそれで助かるなら。

俺を乗せた軍艦は、インペルダウンへの海路を進む。途中の停泊池となる島を目指しながら。空を見ることができるのは、せいぜい乗る軍艦を変えるときくらいだ。
 久々に見えた空には雲は一つもなく、太陽の明るさに目を瞑った。
「なぁ…アルゴ船座って、ここから見えるか?」
近くの衛兵に問えば、そいつは星に興味があったらしく、問に答えてくれた。
「この海域では昼に出ているから、残念ながら見ることはできない」
「昼か…なら今は出てんだな」
 衛兵は首を傾げたが、それ以降エースが口を開くことはなかった。



わたのはらやそしまかけてこぎいでぬと人にはつげよあまの釣り舟

(大海原を途中の停泊池である多くの島々を目指して漕ぎ出したと、あの人に告げよ。漁師の釣り船よ)
(言葉を持たないお前に頼んでも、あの人に届きはしないけれど)


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