仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣。
これは一体どういう意味だろう。子飼いの3人は、玲莉に言われた通り3人で考え込んでいた。
「だーっもう!なんだっつーんだよ!!」
正則はガシガシと頭を掻く。もとより彼はこういった頭を使うことは苦手分野である。
「だいたいこういったやつはてめぇの分野だろ頭デッカチ!」
「俺に当たるな」
相変わらずの三成のつっけんどんな物言いに正則はカチンときたが、玲莉の仲良くという言葉を思い出し、三成に向けて開いた口を閉じた。
「…なぁ清正ー」
「……なんだ」
「あれって結局なんなんだよ?ネズミノナントカとか」
「火鼠の皮衣」
訂正をいれたものの、正則の問いには清正も首を振った。清正も武勇一辺倒である。頭を使うのは苦手だ。すると意外にも正則の逆隣から答えが返ってきた。
「竹取物語に出てくる、かぐや姫が求婚にきた貴公子に与えた結婚の条件だ。もちろんこの世に存在しない」
思わぬ言葉に正則と清正は驚いて三成を見た。
「きゅ、きゅきゅ求婚!?な、なあ、俺たち玲莉に求婚しちまったのか!?そうなのか!?」
「してねぇよ」
竹取物語は存在し得る中で一番古い物語である。蓬莱の玉の枝も火鼠の皮衣も仏の御石の鉢も、その物語の中にでてくる物だ。かぐや姫が求婚者に与えた無理難題として。
「…玲莉はなんでそんなものが欲しいって…俺たちからは何もいらねぇってことなのか?」
「いや、玲莉は俺たちにしかあげられられないものだと言った。だからそれらは例えかなにかだろう」
「じゃあ玲莉はなにが欲しいんだよ?!」
「お前な…分からねぇから三成だってこうやって悩んでるんだろうが…」
清正の言葉に正則と三成は同時に固まった。正則が勢いよく振り返って三成を見る。三成は止まったまま否定も肯定もしない。
「三成にも分からねぇことはあるんだな!!」
正則が三成の肩をガシッと抱いた。三成の綺麗な顔が一瞬にして憤怒に染まる。三成は正則を睨みつけるが、正則はどこ吹く風だ。腕を退かそうにも三成の力では脳筋正則の腕は退けることはできない。
「離せ馬鹿!」
「いいじゃねぇかよー!ほら、清正も!」
「俺まで巻き込むな!」
「仲が良さそうね」
第三者の声に正則は2人を抱きしめたまま振り返る。玲莉が微笑みながらこちらにやってきていた。
三成は、正則が玲莉に気が向いているうちにと正則の腕を退けた。ほぼ同時に清正も腕を退ける。そして3人の視線は玲莉に注がれた。
「どうしたの?」
「いや、お前…その格好どうしたよ…」
玲莉は自分の服装を見て納得の声を上げた。そういえば秀吉様から頂いた打掛を着たままだ。
「秀吉様とおねね様がくださったの。私にはもったいないものだけど、綺麗でしょう? 今日一日くらいはこの格好でいいかなって」
「…さすがはお二人が見たてられただけのことはあるな」
「ふふっ。ありがとう」
三成が素直でないということが理解できたら、三成の本心は意外とすぐに把握できるようになった。
「ところで、私の欲しいものの準備はできた?」
「玲莉!お前の欲しい物って存在しねぇじゃねぇか!」
「うん、しないよ。物とか私必要ないし」
「ではお前の欲しいものとやらは物ではないのだな」
三成の言葉を玲莉は肯定した。
「私が言ってきたことをもう一度よく考えて」
「分からなかったら誰に聞いてもいいけど、できれば3人で仲良く考えて」 3人はそれぞれ考え、そして同時に頭を上げた。そうだ。最初から、玲莉は答えを言っていた。
「「「仲良く?」」」
「そう、私が欲しいものは3人がずっと仲良しでいること。できる?」
3人は見合わせたが、すぐに三成がそっぽを向いてしまった。それに正則はつっかかろうとしたのだが、その前にすぐそばで小さな笑い声が漏れた。
「じゃあ私が楔になるよ。3人の仲が拗れそうになったら私が繋ぎ直す。4人ずっと一緒だよ!」
玲莉は右手を3人の前に出した。玲莉の意図が分からず3人は首を傾げる。
玲莉はその3人の手を自分の右手に重ねていき、最後に自らの左手を一番上にのせた。
約束
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