「宴の最中に、こんなところでどうしたんですか?」
「玲莉殿!」
 一人ぽつんと縁側に座っていた馬岱に声をかけると、馬岱は笑顔で振り返った。
「玲莉殿こそ、こんなところでどうしたの?」
「皆様もう酔いつぶれてしまいましたので、そろそろおひらきになるかと思いまして。…片付けをして絡まれるのはもう勘弁です」
「えっ!なにそれ初耳なんだけど!誰に何されたの?!」
 馬岱が立ち上がってそばに寄ってきた。そして両肩をがしりと掴まれる。ふわりと酒の匂いがした。だが僅かだ。
「………まあ、よいではありませんか。過ぎたことを言っても仕方ありません」
「良くないよー!大事な玲莉殿に何かあったら俺が困るんだからぁ」
「なぜ馬岱殿がお困りになるので?」
「そりゃあ俺、この国が大好きだから。亀裂ができて仲違いとかやめてもらいたいんだよね」
 へにゃりと笑う馬岱。笑う直線の陰った顔に、玲莉は心の中で振った話題に後悔した。
 彼の過去は、彼の心に暗い影としてくすぶっている。味方を信じられずに、敵の策略にかかってしまったことを。
「ところで、馬岱殿はこちらで何を?」
「あー…、月をね…」
「…ああ、綺麗な満月ですね。よろしければ、ご一緒しても?」
「もちろん!玲莉殿なら大歓迎だよぉ!」
 最近は忙しくて、月などろくに見ていなかった。欠けることなき望月が杯に浮かぶ。
「先程の言葉についてお伺いいたしますが、ならばなぜあなたは皆と一線を引いた接し方をなさるので?」
「そんなことな、」
「あります。現に今日も、酒をそれほどお召しになっていないのに、酔ったと偽ってこうして宴を抜け出しているではありませんか」
「……玲莉殿ってば、もしかして俺のことずっと見てたわけ?」
「ええ」
「えっ」
 馬岱は目を丸くして玲莉を見た。
「なにを驚いてらっしゃるのですか?あなたと同じ理由ですよ」
「あ、あぁ…。そういうことね」
 馬岱が大きなため息を吐いた。何かいけないことを言っただろうか。理由がわからなかったので尋ねてみるも、気にしないでいいと返ってきた。
「…皆で飲むのが嫌いなわけじゃないんだ」
 手にある杯の酒を飲むと、馬岱はぽつりと呟いた。酒を注ごうと酒瓶を手に取ったが、もういいよと言われた。
「ここの人って皆いい人ばっかりだからとても居心地よくって……だから、失ったとき、今度こそ自分が壊れそうで嫌なんだ」
「…皆と一線を引いていらっしゃるは、仲良くなったら別れが辛いからだと?」
 ややあって馬岱は頷いた。杯に写る満月が揺れる水面に姿を失う。俺って小さいよねーと馬岱が笑うので、そうは思いませんと玲莉は返した。
「私には馬岱殿の気持ちを正確に理解することはできませんが、誰でも別れは辛いものです。ですから、寂しいと仰るなら私がずっと馬岱殿のそばにいます」
「えっ!?」
「馬岱殿が馬超殿のそばにずっといらっしゃるように」
「あ、あぁ、うん!ありがとねー!」
「約束ですよ馬岱殿」





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