どっちがおかえりよ
夜も遅いし、もうひと頑張りしたら帰るぞ〜。
帰ったら久しぶりにみつきスペシャルTKGをかっこみながら撮りためたドラマでも見よう。
そう思いながら鼻歌を歌う私は、自席に戻ろうとお手洗いを出た。
22時過ぎのオフィスには、必要以上の照明がついていない。
「おばけなんてなーいさ……」
そう言いながら自分のフロアのドアを開ける。
「おばけなんてうーそさ」
「ちょちょ……どわっ」
自分の席のあたりから、声が聞こえる。
「なんや、まだおったん」
「ちょっとー、ギン。驚かせないでよ」
「ボク、ただみつきのこと待ってただけやもん」
「待ってたって……先帰ったんじゃなかったの?」
こいつはたしか定時になった瞬間にお疲れ様ァーなんて言いながらそそくさと帰って行ったのではなかったか。
「ウン、先帰ったんやけどな、かわええ彼女が帰ってこんから心配になってしもてん」
「今日……うち来るって言ってたっけ」
「約束はしとらんよ。けど、会いたァなったから会いにいってん。」
ダメ?と小首を傾げるギンは、立派な成人男性なのにとても可愛くて。愛おしくて。
「……あと15分で終わらせるから待ってて」
「なんや、照れてるん」
照れる私を可愛いといいながら、ギンはわたしにちょっかいをかける。
「もー、15分で終わらなくなっちゃうよ」
「みつきの好きなポテトサラダ作ってきたんになぁ……」
「……!なに!はやく!終わらす!」
色気より食い気やなァ、なんていつも以上に目を細めるギンのことを横目で見つつキーボードを早く叩くわたしであった。
この後は久しぶりに手を繋いで帰ろう。
TKGや撮り溜めのドラマじゃなくて、ギンの作ってくれたご飯を食べて、おしゃべりをしながら二人でハマっている洋ドラの続きを見よう。
ギンのボードには、翌日は客先直行と記されていた。
わたしは今日の夜更かしの算段をするのであった。
2018.8.12