現実世界へ帰りましょう



お前のような女が少子化に拍車をかけている。

友人にそんな軽口を叩かれたのはいつだったか。
気づけばまわりの友人は、結婚式だ出産だ、人生の数々のイベントをこなしていた。

「しょうがないよねー、ビールおいしいもん。」

今日も結婚式の二次会だった。
早く乙女ゲーをやりたい、そういう気持ちも持っていたが、やるせない気持ちを抑えるために帰宅途中に気になっていた居酒屋にはいった。

ビールとお新香と焼き鳥。

この3つは今のわたしを満足させるには十分で。
少し気持ちが落ち着いてきた頃だった。

「大将ー!席空いとるかァー」

ちょっと混んでるから、なんて今入ってきた男が通されたのはカウンターのわたしの隣の席。

「なんや、山本ちゃんやんけ」

その場に現れたのは、会社の他のチームの平子真子で。
今知ってる人に会いたくなかったです、なんて言えるわけもなく。

「えらい綺麗な格好しとるやん、どないしたん」
「あー、結婚式の二次会帰りで……」
「さよか、せっかくの格好が焼き鳥臭なるで」

そんなのはどうでもいい、とも言えない会社ではいい子ちゃんな私は、焼き鳥の気分だったのでなんて曖昧に微笑んだ。

** ** ** **

「ほんでなァー、拳西がなァー」
「やだー、拳西さんたらそんなことしてるんですかー」

平子真子は、うちの部署の拳西さんと同期入社だったことが発覚して、一人で居酒屋に入ったことも忘れるほど盛り上がった。

「にしても山本チャン、土曜の夜にこんなとこおって彼氏心配せェへんの」
「いたらこんなとこなんていませんよー。私なんか少子化社会を助長させる人間らしいので」
「なんやァ、それ」

しまった、と思いながらも、こんな姿を見られてしまったのだからと好きな乙女ゲーの話、彼氏がいない話をぶちまけた。

** ** ** **

それからというもの、すっかり意気投合した私と平子真子は、週に1回土曜日にこの居酒屋で会うようになっていた。

「そういえば、平子さんは彼女とかいないんですかー」
「なんや、自分そんなこと気するタチかいな」

普段誰に彼氏彼女が居ようと全く気にしてはいなかった。
それでもこんな質問をしてしまったのは、この時間が楽しくて大切だからだろう。

「……おらへんよ。彼女なんかおったら山本チャンとこんな場所で会われへんもんなァ」

その回答に、彼女ができちゃったらこの時間もおしまいかなと少し寂しくなる。
本来だったらここまで仲良くなるはずのなかった人なのだから、そう自分に言い聞かせた。
この人に彼女ができたら、また他のキャラを攻略しにゲームに帰ればいいだけなのだ。

「なァ、毎週ここで会うだけやのぅて、他のとこ行ってみィへん?」
「へ……他のとこですか?」
「一応、デートのお誘いやねんけど」
「は……へ……」
「少子化社会を止めようと思って、立候補やねんけど」

ダイレクトな誘い文句。
それでもこれを逃すものかと私はただ首を縦に振る。

そうして独り身の私は売れて行ったのだ。
次のデートまでに、家に溜めていた乙女ゲーは全部売りに行こうと硬く決意する私だった。

ゲームよりリアルなときめきをくれたこの人をもっとよく見てみたい、そう思った。





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