せんぱい
社会人になって数年目。
さすがに満員電車も、理不尽に怒られることも慣れた。
それでも慣れないものがこの痛みなのである。
「みつきチャン、どないしたん?」
「あー、平子さん。おはようございますー。新しいパンプスにまだ慣れてなくてちょっときついんですよー。」
「ほーん、女のコって大変やなァ。」
平子さん。
わたしと同じ、営業課の先輩。
いつも気さくに話しかけてくれる人。
「みつきチャン、今日の外回り電車やろ。駅まで営業車乗せてったるわ。」
「えー……悪いですよ。それに、他の子にヤキモチ妬かれちゃいますよう。」
「アホなこと言いなや。靴擦れしたら後でしんどいやろ。ホラ、行くで。」
何だかんだ優しいから、断ってもきっと無理やり連れて行ってくれるんだろうな。
「助手席のせたるわ。俺の運転見て惚れたらあかんで!」
「何言ってるんですか。この前ひよ里さんのこと引きそうになってたじゃないですか。」
「あれはわざとや。わーざーと。」
他愛のない話をしながら駅まで向かうと、本当にあっという間で。
「平子さん、ありがとうございました。」
「ん……。ホラ、これ持って行き。」
小さい箱を渡すだけ渡して、平子さんはあっという間に行ってしまった。
「絆創膏……。」
こういうところが、わたしが彼を好きな理由なのだ。
仕事が終わった後、今日のお礼にかこつけてご飯に誘ったら、平子さんは驚くかしら。