ブランク



100年ぶりに、あの人が帰ってきた。
すぐ帰ってくるーなんていってふらっといなくなったあの人。

「待ってろ」なんて言われなかったし、もう二度と会えないと思ってた。
だから、わたしだって覚悟を決めて、もう待たないつもりだった。


それなのに、何もなかったような顔で突然戻ってきて。


「もー……修兵も酷いと思わない?しれっと戻ってきてさー。」

「……その話、5回目だぞ。酒、その辺にしとけよ。」

あの人が帰ってきて一週間、その日の仕事を切り上げた修兵とわたしは飲屋街の一角にある行きつけのお店にきていた。

「だいたいなー、そんなに文句があるならみつきから会いにいけばいいだろうがよ。」

「そんなことできたらこんなとこで修兵にあの人の悪口なんて言ってないわよ……。だいたいねー、100年よ。100年。何話していいか分かんないもの。」

「そういうもんかねー。ま、そのうち話すタイミングも来るだろ。またこっちに戻ってきたんだしな。」

「そうね……。ちょっとお手洗いいってくる……。」


話せば話すほど憂鬱になったわたしは、気持ちをリセットするためにその場を離れることにした。


「あー……お酒飲むと愚痴っぽくなって良くないなー。」

戻ったら修兵に謝って、何か楽しい話をしよう。
せっかく久々にはやく仕事を切り上げて飲みにきたんだもの。

散々こっちの愚痴聞いてもらったんだから、乱菊も誘って今度3人で飲もう、なんて話もいいかもしれないなー。


「お疲れ様ですー。そちらはどうっスか。」

なんだろ、修兵の話し声が聞こえる。

「ただいまー。誰と話してん……え!!!」

「おー、みつき久しぶりやんけー。」

「ちょ……なんで……?」


なにを話していいかわからない、あの人がそこにいて。

「ちょっとこいつ借りてもええかー?」

「どうぞ。そのまま返さなくてもいっすよ。」

「修兵!!!」

「ほんならお言葉に甘えて連れてくわ。」



わたしのお酒も、食べかけの唐揚げも残ってるし。まだお会計もしてないし。
何より、連れ出したくせに何にも話しかけてこないし。
こんな時に明るく話しかけられるほど、わたしはできた人でもない。

「……。」

「みつき、待たせてすまんかったな。」

「別に真子のこと、待ってなかったわよ。」

「それでもや。100年間、毎日オマエに会いたいなーおもとったわ。」

「わたしは別に……。」

うそ。
せっかく会えたのに、話せたのに、思ってることと正反対なことばっかりしか言えない。

「みつきは、えらい綺麗になったな。」

「嘘ばっか、100年前から見た目なんか変わってないわよ。なんで今更……。」

「もうええわ。黙っとき。」


その瞬間、唇が重なって。
100年前と変わらないその唇。

「会いたかった……。」

わたしだって、毎日真子のこと考えてたわよ。


100年分抱きしめてくれるんなら、許さないこともないわ。





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