ほらまたよそ見した。
せっかく、いやむしろわざわざ勉強を教えてあげているのによそ見って何?
拗ねたところで分かってもくれない。どうしたんだろうとおどおどするだけ。
鈍感も良いところだよ。

「千鶴ちゃん、分かった? 理解できた?」
「ご、ごめんなさい。聞いてませんでした」
「うん知ってる。もう一度説明するね」

ねえ分かってる?
普通ならよそ見した時点で怒ってこんな利益にならないこと止めるよ。
なんで僕がよそ見しても咎めない、聞いてなかったと言われてももう一度説明するんだと思う?

「……沖田先輩って古典苦手じゃなかったんですね」
「どうしてそう思うの?」
「だっていつも怒られてるじゃないですか。土方先生も沖田先輩には困っているみたいですし」

嫌になる、本当嫌になる。
ただでさえ古典なんて教えたくなかったのにどうしてその名前を出すの。
君は隠しているつもりかもしれないけどバレバレだからね。僕には何でもお見通しだよ。

「苦手と嫌いは違うからね。僕は古典は得意だよ」
「はあ……じゃあなんでいつも怒られてるんですか?」
「聞いてた? 苦手と嫌いは違う。土方先生が嫌いだからだよ」

僕が土方先生という単語を出した瞬間、ぴくりと反応してた。
この反応を見たらますます嫌いになっちゃう。好きになる要素はないから嫌いにしかならない。
でも僕が嫌いだって言えば、なぜか本人でもない君が落ち込むから困っちゃう。
君にそんな顔させたくないのに、本当に酷い男。

「土方先生って」
「え?」
「ううん。土方先生のテストは難しいよねって。補習とか追試とかならないように教えてあげる」

はい、と嬉しそうに頷くけどそれは本心?
きっと心の奥底ではあわよくば補習とか追試とかになって少しでも先生の近くにいたいとかあるでしょ。
だって僕にはお見通しだから。
君のことずっと見てるんだから分かるよ。
癖も字も好きな色や食べ物も、歩き方だって。
土方先生が大好きなことだって知ってるよ。

「あ……」

ふいに千鶴ちゃんが声をあげてぽかんと間抜け面。
視線の先を見れば案の定土方先生で、まったく面白くない。
しかもなぜかこっちに来る。嫌だ嫌だ、嫌な男。

「総司が勉強なんて珍しいな」
「違いますよ。教えてあげてるだけです」
「総司が……? いや、でも担当してる教科を勉強するとか嬉しいことしてくれるなぁ」

たまたまですよ、なんて言葉を飲み込んだのはその言葉は僕に向けられたものじゃないから。
千鶴ちゃんは見るからに嬉しそうににこにこ笑ってるし、土方先生も嬉しそうだし、いたたまれないったらありゃしない。

「ま、頑張れよ」
「はい!」

土方先生の後ろ姿をうっとりといった様子で見つめる千鶴ちゃんは本当に間抜け。
話せただけで嬉しいとか安い女だよね。
僕には何でもお見通しだよ。
よそ見してるんじゃなくて、ずっと先生を見てるだけってこと。
君の目に映らないんだよ僕は。

せめてもの抵抗として君の気持ちを先生に分からせる気もないし、先生の気持ちを君に分からせる気もない。
知らないままでいていいからね。
先生と一緒にいる時間を減らすために勉強するし、どんなに時間がかかっても教えてあげる。
その分僕といる時間が増えるからね。

本当、二人が鈍感で良かった。


言わないからね、絶対
120325@空想アリア

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