微笑みを浮かべて目を細めて、愛おしそうに見つめていることは知っていた。ただ唯一の幸せであるように一人の少女を見守っていた。

「どうして何も言わないんだ」
「珍しいですね。貴方が私に何か意見するのは」

下手すれば機嫌を損ねかねない質問に彼の人はただ笑っただけだった。少女に向けるものとはまた違う、作り物の笑顔であった。
やはり彼の人にとって少女は特別な存在なのだろうと改めて思う。

「いつも何か言いたそうにしているから」
「そうですか。貴方はよく見ていらっしゃる」
「心配なのか? それとも咎めるのか?」

微笑んだまま何も答えなかった彼の人は再び少女に視線を向けた。
夢の屋も変だが彼の人も大したものだと思う。
確かに少女は魅力的だが危なっかしく、猪突猛進でどことなく一線を引いていたくなる。彼の人もそうだ。少女に優しい眼差しを向けるのにいつも一線を引いている。
しかし引きたくて引いてるのでは無いように見えた。おそらく一番傍にいて少女を守りたいと思っているのではないだろうか。

「何故ですか」
「その質問の意図は?」
「傍に居たいなら居れば良い。それこそ、自分の意志で決めるべきだと、俺は思います」
「貴方には分からないことも沢山あるということですよ」

含みを持たせた笑みと共に鋭い視線が突き刺さる。しかしなぜだか、それに混ざる淋しさが俺には感じ取れた。
きっと彼の人は嘘を吐いた。
俺にも分かるのだ。隠しきれないほどの想いなのだろう。

「……済まない」
「貴方は間違っていますよ。だから無知だと言われるのです。いずれ後悔しますよ」

それでも俺は謝りたかった。後々のことなど分からない。
けれど今、彼の人が淋しさを混ぜて向けてきた羨望の眼差しに俺は堪えきれないのだ。


大きな大きな嫉妬の海にて
120128@食卓

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