「おつとめ頑張ってねーん」
「うるせーよ」







春先からずっと喉が痛いとぼやいていた洋平の入院が決まりました。はい、ご愁傷様。と言っても全然ひどい病気とかじゃなくって手術さえすれば治るらしい。


「手術こえーよ」
「病院嫌がってほったらかしにしてたのが悪いんじゃん」
「いやいや、オレだって手術しなきゃって分かってたら早めに行ってたって」


なんやかんやで朝から文句ばっか言っている。洋平をクールだとか思っている世の皆さん、洋平は実は臆病者ですよー。情けない男ですよー。そうこう言っている間にも、手にはタバコが持たれていますが?喉痛いんだろおまえ。でも片眉下げながら目ぇ細めて吸う姿は最強にかっこいいんですよこれ。その甲斐あって私も強めに説教することが出来ず入院になった訳だけど。まぁつまりは自業自得ということで。


7月の昼下がり屋上はとっても気持ちが良い。うちの校舎はイイ具合に日陰になるもんだから、この暑い夏から解放してくれるようだ。ごろんと寝っ転がって存分にその風を受けていたら屋上の扉が音を立てた。ちなみに今は授業中。横ではリーゼントが喫煙中。やべー。


「おうおう、お前らなにやってんの」
「なーんだアホ楠か」
「てんめ、なまえ表出ろや」
「また騒がしいのが来たよ」


洋平と私は同じクラスだから一緒にサボることも多いけど、大楠とは授業中にこうやって遭遇することは珍しい。ちなみに花道は学校に来てしまいさえすればあまりサボることはない。なぜなら授業に出ても実に堂々と寝ていらっしゃるから。やっぱり彼には敵わん。逆に洋平は授業に出たとなると実に真面目に1時間を過ごす。先生の話を聞いているのかは謎だけど、教科書をひたすら読んでみたりだとか黒板のある箇所をメモってみたりとか。だからなのかは分かんないけど博識だと思う。テストとかはそんなに良い点とかじゃないけど、クラス1位の子が解けなかった問題だけ丸をもらっていたりする。謎だ。まれに朝から新聞読んでることもある。この人は本当に謎だ。さらに言うと、私はそんなのばっかチェックしちゃって肝心の成績は下の下である。


「で、洋平いつからなんだよ病院」
「夏休みと同時にだよ、ついてないよな」
「マジかよ!今年の夏は棒に振ったなハッハッハ」


ただでさえ毎日会っていたのがなくなる夏休みだっていうのに、そのうえ入院だなんて。今年の夏は楽しくなさそう、


「なまえ見舞いいこーな!」
「え?」
「見舞いじゃなくてひやかしだろ」
「あたりめーだ」


そうかお見舞いという手があった!ナイス大楠!それに大楠たちと一緒に行けばいろいろと安心だ。


「洋平のパジャマ姿楽しみ」
「なまえ、おまえもか」
「にひひ」










私と洋平の関係は、あのお見舞いの一件以来少し変わってきてる。例の腹痛事件ね。あの時は私が見舞われた訳だけど、まあそれは置いといて。


たとえばみんなで遊んでたりしてて、ざこ寝しちゃった時とか毛布の下で手を繋いできたり、ギュってしてきたり。最初はもうなにがなんだか分かんなくて、心臓が飛び出るって表現は実際起こり得るものなんじゃないかと思ったほどだ。初めて手を繋いだ日は指と指が触れて少しずつ重なっていったのを覚えてる。なんていうか、すごく恋っぽかった。今まで何人かの人を好きになったり付き合ったりしたけど、洋平みたいな恋愛は初めてだと思う。一挙一言すべてがキラキラしてるっていうか、こんなに素を出せてなお、ドキドキ出来るっていうのはすごいと思う。


洋平も私も人見知りだから、一年の時は同じクラスだったっていうのにまったく話したことがなかった。二年になった時、たまたま鳴海と放課後にマック行ったら桜木軍団と呼ばれるその人らがいて。まさかの鳴海が友達だったっていうオチ。そんでちょっと緊張しながらポテト頬張ってたら、鳴海がいつもみたいにムチャブリするからそこで女子からぬ行動をしたところ、からかいがいのある奴に認定したようでもうその日からちょっかいの嵐。でも鳴海からあとで聞いたら、初日であんなに打ち解ける洋平はかなり珍しいらしい。だからあの日のマックでの光景は桜木軍団+鳴海からしたらかなり異様だったようだ。


運命なんて信じてるわけじゃない。だけど洋平と私は絶対に仲良くなる星の下産まれてきたんじゃないかと錯覚しそうになるほど、それはもう必然的に出会った気がする。多分私はあの日、もう好きだった。ほんとだよ。


仲良くなって知ったのは周りを連続で驚かせるほどの共通の性格。人見知りからはじまり、音楽の趣味、笑いの価値観、好きになる人間とか?そりゃもう全部が全部っていうほど。街中歩いてて流れてきた曲に「あ、この曲好き」ってハモった時は流石に自分自身驚いた。お互い顔見合わせて笑ったなぁ。だからかな、好きとかじゃ収まりきらないとこまで来てる。好きとかなくても一番気の合う友達だと思う。だから、気持ちを確かめるのは怖いんだ。ちょっと前まで、これって付き合ってないだけで両想いだよねって勘違いしてたけど。現実はそんなに甘くないんだ。










夏休みはもう目の前。胸の中がちくちくする。洋平の笑顔を見ながらそんなことを思った。


(「なまえ!あんた知ってた!?」「おー鳴海、なになに」)
(「洋平彼女いるんだって!」「え、」)


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