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「今なまえといるけど。あ?イヤだろ、普通に考えてねーだろそれ、おいこらちょっと待て」


どうやら途中で電話を切られてしまったらしい洋一は携帯を耳に当てたまんま固まっている。
今日は久しぶりに二人でデートだったんだけど、なんだか雲行きが怪しそうだ。


「どしたの?誰?」


しばらく放心してた洋一の親指がやっとの思いで通話ボタンを押した。


「父親…おまえ、家に連れて来いって」
「えー!お呼ばれってやつー!?足、足出ちゃってるよ私!清楚なカッコ程遠いよ!キャーキャーお茶菓子買ってかなきゃ!」
「ノリノリじゃねーか!」


いきなり彼氏のお家に初訪問です。乗り気じゃない洋一を半ば置き去りにしながら、雑誌に取り上げられているような行列の出来るケーキ屋でお土産を買う。待ち時間もドキドキだ。頭の中でシュミレーションをしてみるも、お父さんお母さんを見たこともないのでイメージが湧かない。洋一にどんな人?って聞いてもなにも教えてくれない。ノー情報でお父さんお母さんに会うのは緊張するのになぁもう。あ、お父さんお母さんて呼んでもいいのかしら?その考えベタ?あなたのお母さんじゃないわよとか言われちゃう?あれって昼ドラだけかな。


あたしの妄想はどこまでも広がっていく。だって彼氏の家族って!しかも洋一の!


でもね、今日はもう緊張とかよりあたしは幸せでいっぱいなんだ。だってさ、お父さんにあたしの存在を教えてた訳でしょ?名前だけで伝わってたもんね?女子はめざといからそういう細かいとこ気づいちゃうんだよ。洋一の場合、良いことばっか気づいちゃうからあたしは幸せなんだ。




家庭訪問
(いざ参らん!)



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