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ガコガコガコ、と一定のリズムで進んでいくジェットコースター。絶対に嫌だと全身全霊をかけて拒否したにも関わらず先頭に乗せられた私の横には、さらに不運なことに御幸がスタンバイしていた。あぁ、こわい。こんな真っ逆さまになって何が楽しいと言うんだろう。空しか見えないこの角度は、先頭という特等席のおかげでよりにもよってレールがキレイに視界に入った。


「もー嫌、本当に駄目、怖いぃ」
「ハッハッハ」
「な、あんた馬鹿にしてるでしょ」
「してねーよ、オレも怖いもん」
「え、そーなの?」
「うん、けどさ、楽しくね?」
「へ」
「みんなでこーやって遊園地」


頑張って目を開けて御幸の顔を拝むと、本当に怖そうに引きつった表情が目に写った。だけどそれ以上に楽しそうで。いつもいつも、良くも悪くも正直な奴。


「、わたしも楽しいは楽しい」
「クク、珍しい〜」


御幸と付き合っている時の私は自分の気持ちとか、こうしたいっていう希望とかなんにも言えなかった。なんで言えなかったって、やっぱり御幸のことが本当に好きだったからだと思う。好きすぎて、なにかを言って嫌われる方が怖かった。人ってむずかしい。御幸の顔から目線を前に戻すと、このコースのてっぺんが迫ってきていて、想い出から一気に現実に引き戻された。


「ギャア!」
「ハッハッハ!」
「み、御幸ー手!手貸してぇ!!」
「ぷっくっくっく」
「笑うなー!」
「ハイ、お手をどうぞお姫様」


振られたあとで友達から聞いた御幸の話。「なまえって本当にオレのこと好きだったのかな、」どんなに心で想っていても、言葉にしないと伝わないんだって嫌というほど実感した台詞だった。私の好きは御幸になにも伝わってなかった。御幸の手を折れるんじゃないかってくらい強く掴むと、横からまた笑い声が聞こえた。視界が空から地面に切り替わる中で、こんなことなら早く素直になっておけば良かったと泣けてきた。


「み、ゆ、きー!!!」
「なにー!?」
「好きーーーー!!!やっぱり好き!大好きーーーー!!!」


時速何百キロのスピードで進む私たちに轟音が邪魔をする。だけどもう後悔なんてしたくない。今まで出したこともないくらいの大声で叫んでみせた。さすがに御幸の方には振り向けなくて、爆風を顔面に受けていると繋いだ手を思い切り握り返された。


「オレも、だーーーーー!!!!!」


目に溜まった涙が零れると風に乗って後ろへと流れていった。後ろの席の人に迷惑極まりないなって反省していると、パチパチという音が代わりに返ってきた。




涙の報復に祝福の拍手

(なまえから手繋いできたの初めてだな)(恥ずかしかったんだってば。)



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