SLAM DUNK | ナノ


「なまえそれ取って」
「タバコ?」
「違う、メガネ」

そうかお風呂入ったからコンタクト取ったのか。手を伸ばしただけでは届かない距離だな、めんどくさい。私は重いお尻をよいしょ、とあげてペンホルダーに突き刺さった黒縁のメガネを取り上げた。

「はい、なんかご褒美ちょーだい」
「お前それはあんまりだわ」

呆れたように笑いながら彼はそれを受け取る。湯ざめしているのか触れた指先は少し冷たかった。

「洋平髪乾かしなよ、風邪ひくよー?」

まだ濡れている髪先から水滴が落ちベッドにシミをつくっている。そしてそこにくつろいでいる私ももれなく寒い。

「あーごめん、ドライヤーどこやったっけな」
「なんでどこあるか分かんないのよ」
「いやいつも濡れてるときに髪作るからよ」
「あの髪型と驚異のセット力は未だに謎だよ」

あーあったあったと言いながら、まったく最新式でないドライヤーの音がブォォと部屋に響き出した。

「ねー!」

かき消されないように少し大きめの声で後ろから声をかける。

「あー?なに」
「あたしが乾かしてあげる!てかあたしがあのリーゼントを作る!作ってみせる!」
「ぜってーいや」
「なによ意地悪」
「つか、今リーゼント作られてもあと寝るだけだろ」
「ブーブー」
「うぜえこいつ」

騒音が一瞬途切れると、私の手元にシルバーのドライヤーが転がり込む。

「乾かすだけな」

髪の長い私と違って、今の間だけでほぼ乾いているのに。深夜のうざいテンションにここまで応えてくれる洋平は自慢の彼氏です。(棒読み)

「にしてもサラサラだねー。うらやまし」
「なまえも髪きれいじゃん」

腰近くまで伸びた私の髪を洋平がひと束つまむ。

「これには死に物狂いのブローがあるんですー」
「そうなの?」
「うん、クセひどくて」
「そうなの?」
「そうだってば。てか洋平降ろすと髪けっこう長いね。ロン毛じゃんロン毛」
「いやいやかつてのミッチーより全然短いだろ」
「ぷ」

あの髪型は思い出しただけで笑える。笑いすぎて手が震える。温風がコントロール出来ん。

「耳あちー!」
「アハハごめーん」
「いいからもう止めろ」

数分ぶりに部屋に静寂が訪れると同時になにやら洋平の唇がくっついている。なんで洋平はこんなにドキドキさせるのがうまいんだろう。ドライヤー止めると同時にキスなんて一般人に出来るのか。ロン毛のキムタクしか出来ないんじゃないのか。もしかしてロン毛はみんな出来るのか。いやだとしたらミッチー先輩も出来てしまうからやっぱり選ばれた人だけなんだろうな。(真顔)

「髪乾かしてたらお前の指のが冷えちまったな」
「いや私もとから冷え性」
「手ぇつなぐ口実ちょうだいよ」
「あ、そりゃ、ごめんなさいよ」

洋平がほんっとお前にはかなわねーとか言いながらベッドに転がり込んできたけど、実は私のほうがずっとずっと思ってるのよ?



愛すべきピロートーク



back
- ナノ -