2本目。

木吉ゆり、秀徳高校1年。
記憶力が超特化してて、1度見た選手の顔や名前、ポジションにゲームの運び方などあらゆる情報を脳みそに収納してるらしい。
そのデータを活かして選手の動き、結果を無限にシミュレートできるスーパーコンピュータみたいな人。
俺が木吉さんに関して知ってるのはそれだけ。
正直、この間のIHまで存在すら知らなかった。

"私が導くのは最善。勝てるかどうかは選手次第ですよ"

その言葉通り、木吉さんの情報は全て正しかった。
あの選手は右に抜ける癖があるだの、その選手のスリーは入らないからリバウンド、だの。
もちろんあの試合と準決勝はヨユーで勝った。
しかも点差は木吉さんが言った点にドンピシャ。
さすがに監督も目ん玉ひんむいてたね(笑)

だけど俺たちは決勝で誠凛に負けた。
決して木吉さんが手を抜いた訳じゃない。
木吉さんは最初から言ってた。

"火神大我くんは試合で成長する。動きが読めない。それを含めてシミュレートしても良くてシュート一本差でウチってとこです。"

結果俺らは木吉さんのシミュレートに応えられなかった。
それでも監督は前2試合の功績を称えて1軍への昇格を提案したけど、木吉さんは約束だから、と次の日には退部届けをだして消えた。
その退部届け、実はまだ部室に置いてあるなんて木吉さんは知らねぇんだろうな。

その木吉ゆりが俺らのクラスに在籍してることを知ったのは木吉さんが消えた次の日のこと。
(遅ぇとか言うなよ。入学してすぐは気にしてねぇやつなんて案外知らねぇもんだし。)



「木吉ー、木吉ゆりはおらんのかー」
「え゙!!」
「どうした高尾」
「…イエ、ナンデモアリマセン」

木吉さんって同じクラスだったの?!って横の真ちゃんにきいたら、怪訝そうに"そうなのだよ"って言うじゃねーの。
なんだよ、真ちゃんは知ってたのか!!
どうやらいつも空席なあの席が木吉さんらしい。
俺あの席が埋まってんの見たことねぇんだけど。
ん??…なんだよ、荷物かけてあるし来てんじゃん。

「木吉は休みか」

先生がそう言うから、カバンあるって言おうとしたらガラッと後ろのドアが開いた。

「すみません、遅れました」
「…どうした木吉ー。通り雨にでもあったか」
「ええ、私の地域土砂降りで」

そういう木吉さんは頭からバケツの水を被ったかのようにびしょ濡れだった。
木吉さんは笑ったまま自分の席に行き、荷物とジャージを取る。
戻る時に少し俺とぶつかった。

「あ、ごめん。濡れちゃった??」
「いや…」

俺が否定しようとしたらクラスの…名前も知らねぇような女子が声をあげる。

「あー!!高尾くん濡れちゃって可愛そう!!」
「…は??」
「もっとちゃんと謝りなさいよ、木吉さん」
「高尾が風邪引いてバスケできなくなったらどう責任取るわけー??」

こんなんで風邪引くやつなんていねぇよ。
大丈夫だっつってんのに回りの女子がこれでもかっつーぐらい木吉さんを責める。
…こりゃあ…

「あー…本当ごめんね。よかったら使って」

木吉さんは困ったようにカバンからタオルを出して俺に渡す。
自分も…つーか自分の方が大分濡れてるのに。
そして木吉さんが教室から出てくと何事もなかったかのように担任は話し始める。

「木吉も来たし、欠席はなしだな。朝のHR始めるぞー」

どう考えてもおかしいだろ。


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