"俺ももっと早くめいと出会ってたらって思わなくもないけど"


思わず本音が出て焦った。
君は気付かなかったみたいだし、八田のおかげで話をそらせたけど、
自分の本音が出たことに苦笑いしかできない。
やっぱり俺もそうだったんだなって。


君と出会ったのは、キングや草薙さんと出会ってちょっと経ってからだった。



「うわ…やっぱ降ってきちゃったよ」

高校より中学のほうが早く終わるから、
キングたちの学校の前で2人を待ってると、雨が降り出した。
降りそうだなって思ってたけど、天気予報ではそんなこと言ってなかったから
傘なんか持ってないし。

「…まぁ、どうせもう濡れちゃったし」

いつもそう言って草薙さんに怒られるけど、まぁいい。
気にせずそのまま待っていたら、パシャパシャと歩く音がだんだん近づいてきて俺の前で止まった。
下げていた目線をあげると、
レインコートに長靴を装備してでっかい傘をさし、もうひとつ傘を持った女の子がいた。

「お兄ちゃん、傘ないの??」


小学生くらいかな??
俺よりも年下っぽい。
俺がうなずくと、女の子は俺と自分のさすしている傘を見比べて言った。

「あのね、私の傘すっごく大きいの。だからね、お兄ちゃんも入れると思うの」

女の子は、私かっぱも着てるから濡れても平気だし、と焦ったように付け足す。
…あぁ、これは。

「…入れてくれるの??」
「うん」

女の子は嬉しそうに笑って俺に傘をさしかけてくれた。
身長的に俺が持った方がいいというと、何も言わずに渡してくれる。
…盗って逃げられるとかいう危機感はないんだろうか。

「ね、俺の名前は十束多々良。14歳の中学2年生だよ」
「とつか…たたら」
「そう。…君の名前は??」
「雪月めい、えーっと…11歳なの」
「11歳か。じゃあ5年生か6年生くらいかな」
「…小学校、今は行ってないの」

おっと。
意外な答えが返ってきちゃった。
これは深入りしないほうがいいかも。

「めいちゃんは…」
「めい」
「え?」
「ちゃんはいらないの。めいはめい」
「…うん、じゃあめい」
「うん」
「君は誰を待っているの??お兄ちゃんとか??」
「うーん…お兄ちゃん、じゃない」
「ん??じゃあ」
「いずも」

いずも??
いずもというと出雲で出雲大社??
そんなわけないか。
人の名前だ。

「いずもにね、傘渡すの。いずもここにいるの」
「傘を届けに来たんだ。偉いね」
「いずもの役に立つの」

すると、終業であろうチャイムが鳴って
しばらくしてからキングと草薙さんが出てくる。

「なにしとるん、こないなとこで」
「あ、草薙さ…」
「いずも!!」

俺が草薙さんに気付いて声をかけようとした時に、
めいが走って行って草薙さんに抱きついた。

「おーめい。なんや、傘持ってきてくれたん??」
「うん。それでね、ここでたたらと会ったから一緒に待ってたの」

めいが嬉しそうに話し、草薙さんもさよかと頭を撫でてる。

「え…いずもって…草薙さんのことだったの?!」
「俺、草薙出雲やし」
「下の名前聞いてないよ!!」
「せやったっけ??まあええやん。それより、めいが世話んなったわ」

草薙さんはそう言って、めいを抱きあげて傘をさす。
俺はとりあえず、借りた傘をキングにもさしかけてあげる。

「え、めいって草薙さんの何??妹??でも名字違うし…」
「あー…まぁ、預かっとるっちゅうのが一番近いかもしらんわ」
「そうか、わかった、娘だ!!」
「人の話聞かんか。しかもそれやったら俺いくつで子供できてん」
「冗談だよー」

俺がそう笑うと、まぁそのうち話すし聞かんといてと草薙さんは困ったように笑った。



これが君との始まりで、
俺が君を特別だと思い始めたのはもう少し後のこと。



めいと出会った年の冬。
その日は草薙さんは進路がとうたらで遅くなるって言ってたし、
そういうときのキングは捕まりにくいから俺一人。
よく行く公園のブランコでブラブラしてたら、
公園の前の通りを歩くめいを見つけた。
手を振ると、俺に気付いて近づいてくる。

「おつかい??」
「うん。お買い物」
「そっか。呼びとめちゃってごめんね」
「大丈夫、急いでない」

それでも最近は暗くなるの早いし、心配だ。

「送るよ。どうせ俺今日ヒマ…」

俺がそう言って立ち上がろうとした時、
めいが俺の制服のすそを掴んだ。

「めい??」
「たたら、寂しい??」
「え??」
「寂しいって顔してる。…元気ないの」

思わず黙ってしまった。
俺はそんな顔してたんだろうか。

「今日は二人がいないからかな。最近はずっと一緒だったし」
「そう、なんだ」

めいはそういうと、ちょっと考えるように黙り込んだ。
その後、上を向いてキョロキョロとして
俺の手を引いて公園の真ん中に来る。
もう大分日が沈んでる公園には、俺とめいしかいない。

「めい、どうしたの??」
「ここ、みて」

めいは唐突に自分の両掌を差し出して言う。
何、と掌を見ると、そこに光が集まるように収縮して
ピンポン玉よりちょっと大きいくらいの光の玉ができる。

「わ、なにこれ」
「はい」

めいは俺の問いには答えずに、それを俺に差し出す。
俺が両手でそれを受け取ると、めいの手はそのまま上を指示した。

「投げて」
「え?!」
「上に思いっきり」
「えぇ?!」

俺が状況をつかめない内にもめいはもう一つ光の玉を作って差し出してくる。
仕方がないから俺は、手の中にある玉を上へと投げた。
すると、玉はみるみる加速して空で小さくはじけた。
…そう、花火みたいに。

「…キレイだ」
「たたら、もう一個」

俺はもう一つも受け取り、同じように空へ放る。
俺が投げた二つの玉は、はじけた後にも何度も何度もはじける。

「たたら、元気、でた??」
「あぁ、うん!!すごいよ、めい!!」

俺が夢中で見上げてると、めいが俺の手を控えめにキュッと握った。

「自分の力を使うとね、体温の調節が難しくなっちゃうからあまりやらないの。…このことはいずもたちにはナイショね」
「…うん、わかったよ。この力についても俺は聞かない方がいいんだね」
「…ん」
「わかった。俺とめいの秘密ね」

そう言って俺が小指を出すと、めいはおずおずって感じで小指を絡めた。

「…ありがとう」

そう言って君は笑う。
…違うよ、めい。
お礼を言うのは俺の方だ。
俺は君に、元気づけられたよ。




あの後、めいが高熱を出したと草薙さんに聞いた時、
君の言葉の意味を知った。


"体温の調節が難しくなっちゃうからあまりやらないの"


あれはそういう意味だったんだね。
それを知ってても、俺を元気づけるために見せてくれたんだね。


思えばこのときから、君は特別だったんだ。




「…たたらー」

呼ばれる声がして我に返ると、頭に雪玉が当たった。

「冷たっ…ちょっとめいー??何するのー」
「たたら難しい顔してたよ。ここんとこぎゅーってなってた」

そう言ってめいは自分の眉間をトントンと軽く叩いて示す。
うん、言われてみれば目のあたりが疲れた感じ。

「だからって雪玉投げなくてもいいでしょ。大人は火の子なの。寒いの駄目なの」
「たたら、おじさん」
「えー酷いなぁ」

イタズラっ子のように笑うめいが可愛くて、
思わず後ろから抱き締める。

「あ、温かい」
「人間カイロー」
「あはは、何ソレ」

八田と雪だるま作ってただろうに、
俺のこと気にしてこっちに来てくれたんだね。

「めいとさ、会った頃のこと思い出してた。花火みたいなの見せてくれたのとか」
「あぁ…すっごい前だね」
「うん。あ、今だから言うけど、俺すっごい吃驚したんだよ??その時ストレインなんて知らないしさ、なんだこの子って」
「うん、慣れて…」
「ドキドキした」
「え??」
「すごいなって。めいは特別なんだって、すっごいドキドキした」

俺がそういうと、めいはキョトンとした後にカーッと赤くなった。

「え??」
「あ…や…その…」

俺が驚いた声を発すると、めいは慌てたように顔を伏せた。
俺の腕の中でもぞもぞしている。

「…めいも照れたりするんだ…」
「た、たたらが変なこと言うからだよ。…初めて言われたもん」

その後ももごもごと何かを言ってから小さく、ありがとうって言った。

「たたらが"たたら"でよかった」
「…っ」

あぁ、やっぱり俺は
もっと早く君に出会いたかったよ。
草薙さんよりも早く。
君が誰かを求めていた時、手を差しのべたのが俺だったらよかった。
そしたら君は、俺の隣にいてくれただろうか。


めい、


「…俺の方こそ、ありがとう」


君が好きだよ。


なんて言ったら困らせちゃうね。
だから、せめて。

せめて今だけは、このまま俺の腕の中にいて。
…俺のことだけ、考えてて。







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