神なんてものは、所詮力のないものがよりどころを求めるために生みだした空想である。
あるいは理不尽と矜持を転嫁するための当て馬か。
毎日そんな自らが生みだしただけの、脳内の住人に飽きることもなく祈る愚か者共には嘲りを超してもはや感心するに値する。
そして今日もその愚か者のひとりは僕の目の前で黙々と空想に祈りを捧げているのだ。
その内容は、この狭い世界からの逃亡。新しい世界への前進。――神に祈るにしてはあまりに小さく些細な内容だ。そんなもの、神に祈るまでもないと僕は思うが、それは僕に力があるからであって、僕が特別だからでもある。
弱者たちは力をもたないが故にうちにではなく外から欲しがるものだ。それは目の前の愚か者も同じこと。
だがしかし、この愚か者はただの愚か者ではない。“可能性”がある。
強引に腕を引くことで祈りに閉じていた目をむりやり開かせる。白い頬に手をあてて顔を固定した。
「神なんていやしない。僕に祈りなよ。ナマエ」
神はいないのだから、お前の願いを叶えてやれるのは世界の中でも特別な僕以外ありえない。そうだろう?