大学生×小学生
「うわぁん!!」
「……………」
一体どうしたもんか。
そんなに泣かないで
「やだやだやだやだ」
「柚く〜ん」
「や゙〜!いぎだぐないもん」
可愛い顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして泣きじゃくる。
「大丈夫だから行こう、ね?」
「ゔあー、やだぁ」
さっきから、この攻防戦がかれこれ10分は続いてるんじゃないだろうか。
立ち尽くしたまま号泣している柚くんと目線を合わせる為に、俺はしゃがみ込んでしっかりと柚くんの目を見る。
当の柚くんは泣いていて俺なんか眼中に無いだろうけど。
ここまで長時間泣かれてしまうと、流石にどうすればいいのかわかんなくなる。
柚くんが行きたくない所に俺だって無理やり連れて行きたくなんかないけど、これで帰ったら俺が父さんと母さんにどやされる。
「ゔあー!」
「そんなに泣いてると、置いて先に行っちゃうよ?」
「いいもん!いぎだぐないもん」
俺が呆れながらそう言うと、柚くんは泣きながらも返事をしてそっぽを向いてしまった。
柚くんの態度になんとなくイラッとして、俺は立ち上がる。
そして泣いている柚くんを無視してスタスタと先へと行く。
「や゙あー!ゔわぁん!!」
俺が10メートルくらい進んだ所で、後ろの柚くんの泣き声が一層でかくなった。
小さく息を吐いてから振り向りくと、泣きながら走って俺の所へ来る。
「やだー!待って」
柚くんを待っていると、ぐしゃっと派手に転ぶ。
「柚くん!」
「ゔ〜、痛いよぉ」
転んでしまった柚くんに急いで駆け寄る。
転んでも泣かずに我慢している柚くんがどうしようもなく可愛くて、俺はギュウと抱き締めた。
「行くから!お兄ちゃん置いてかないでぇ」
ズビズビと鼻水を啜りながら、柚くんも俺の背中にギュウッと手を回してきた。
「うん、ごめんね」
「おんぶ」
「はいはい」
おんぶを催促されて、俺は素直に言うことを聞く。
柚くんのちっちゃい手が俺の首に回されて、よーく袖を見てみたら、涙ですごく濡れていた。
「良い子に出来たら帰りに好きなもの買ってあげるからね」
甘やかしすぎかな?と思いつつも、これから頑張る柚くんのことを考えると、ご褒美をあげずにはいられない。
「…うん」
それでも今から行く所が相当嫌なのか、柚くんの返事は沈んだ声だった。
転んだときの痛いのは我慢できるのに、なんで歯医者はこんな頑なに嫌がるんだろう。
これから行く歯医者が怖いのか、柚くんは俺の肩をギュっと掴んだ。