01






月とすっぽんだとか、天と地ほどの差があるだとか、雲泥の差だとか…そんなことは自分でもわかってる。
挙げ句の果てには美女と野獣なんて言われる始末。

美女っつってもあいつは男だし、俺だって野獣のつもりなんかない。見た目と名前のせいで踏んだり蹴ったりだ。


「大神くん。これ、携帯の番号とアドレスなんだけど…」

この呼び出しを食らうのも、この高校に入って何回目だろう。中学のときのも数に入れたら、きっときりがない。
俺ではなく、俺の幼なじみへ宛てた手紙を渡されて仕方なく受け取ってやると、お礼を言って微笑まれた。あぁ、俺は女子のこの顔に弱い。



「ん」
「なんだよ」
「手紙」

風呂を上がってから、ノックもせず遠慮なしにずかずかと幼なじみの部屋へと押し入って預かった手紙を差し出す。
赤ん坊の頃から知り合いのおばちゃんも、俺が勝手に上がっても何も言わないし、むしろ歓迎モードで夜食まで作ってくれるような人だ。

「何それ。和馬からのラブレター?」
「ちげぇよ、馬鹿。クラスの女子から預かった」
「…ふーん。いらね」
「あ゙!」

渡すつもりで差し出した手紙を受け取ったかと思えば、それはすぐにベッドの脇に置いてあるごみ箱の中へと放り込まれてしまう。
もう興味がなさそうに読んでいた雑誌に目を移した楓を一瞥してから、ごみ箱へと入れられた手紙を取り出してテーブルの上へ置いた。

「楓さー、学校で猫被ってんだから俺の前でも被ってくれればいいのに」

学校で爽やかな笑顔を浮かべてる楓を思い出して溜息を吐く。
クラスの奴らの前では優等生の癖に、俺の前だと性格極悪とか質悪ぃ。

「和馬わかってる?」
「え?なに、がっ」

ベッドに勝手に上がって座っていたら、雑誌を読んでいたはずの楓が急に立ち上がって押し倒してきやがった。
苛ついたように眉間に皺を寄せた楓の綺麗な顔が俺の顔に近付く。

「恋人から他人のラブレター持って来られんの、不愉快なんだけど」
「だって、お願いされたら」
「言い訳しない。つーか、和馬の前でしか素出さないんだから逆に有り難いと思え」
「い゙…った」

なんだこの天上天下唯我独尊は。
しかも、鼻に思いっ切り噛み付いてきやがった。これ、絶対歯型残った。

「痛ぇよ。……楓なら、可愛い子と付き合えそうなのに」
「それは俺がかっこいいってこと?」

その問い掛けには返事をしないで、嬉しそうにだらしない笑顔の楓から顔を背けるけど、鼻を摘まれてムリヤリ顔を合わされた。
さっきから鼻への攻撃ばっかりで、ひりひりする。

「可愛い子なんかより、俺はこの不細工にしか興味ないから」
「てめっ…誰がブサイクだ」
「だってクラスのみんな、俺らのこと美女と野獣つってんじゃん。野獣は不細工ってことだろ」

反論をしようと口を開けば、おでこにキスをされて拍子抜けしてしまう。

「じゃ、野獣を襲うとしますか」
「え?ちょ、おい」

俺の首筋に顔を埋めてごそごそと手を動かす楓の姿に、野獣はコイツの方じゃねぇか、なんて思った。


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