>> インパクト

「じゃあ今日は終わり」

先輩の言葉を聞いて、足の力が抜けていった。キツい。キツすぎる。特にノリだけで入った私には。もともと練習メニューはキツい方らしいのだが、アレン先輩が部長になってからより破壊力を増したらしい。朝練からこれって・・・爽やかな笑顔の裏に別のものを感じます先輩。

私はしばっていた髪を下ろしてタオルを取り、ほっと一息ついた。
やばい、体力面だけで言うならば今すぐ辞めたい。朝練やると1限から4限までずっと爆睡なんですけど!で、業後に部活やって帰ったら朝まで爆睡なんですけど!!あれ、いつ宿題すんの、みたいな!

今度は盛大なため息をついた。

「モモちゃん」

可愛い声、振り返るとリナリー先輩がいた。リナリー先輩は陸上部のマネージャーさん。美人で気が利く先輩なのです。私のため息が聞こえたのか「大丈夫?調子悪いの?」と背中をさすってくれた。

「い、いえ大丈夫です!ただ、私にはメニューがちょっとキツくて・・・」

私が恥ずかしながらも正直に話すとリナリー先輩は少し苦笑いした。

「まあ、確かに。アレン君、部長になってまだ日が浅いから張り切りすぎてるっていうのもあるかもしれないわね」
「でも皆さん普通にメニューこなしてるし」
「ふふっ 気にしてるの?大丈夫よ、アレン君授業中爆睡してるから」
「ええっ!?・・・見たい」
「え?見たいの?」
「えぁ!?あ、いやなんか意外だなあって」

いかん、思ったことが口から滑り出てしまった。私は口をつぐんだ。


「そういえば、アレン君に今日の準備聞かなくていいの?」
「あ、そうでした!」

私としたことが!
1日のメインイベントを忘れるなんて。早くしないと先輩が着替えに行ってしまう。私はリナリー先輩に「お疲れ様でした!」と告げて小走りで先輩の背中を追った。



「せーんぱいっ今日の準備はなんですか?」
「えーと、」
一応すごく笑顔で聞いてみたんだけど、例のごとく爽やかにスルーされた。いや、でも考えてる先輩かっこいい・・・!

「ハードルと、」
「げっ」

小さく声が漏れてしまった。先輩はその声を聞き逃さず、私を少し睨んだ。あ、睨んだ先輩もかっこいい・・・

「げ、とは何ですか。」
「いや、あの今日も・・・ハードルなんですね」
「基礎ですからね」
「ハードル苦手・・・」
「へえ」

先輩が一瞬ニヤリと笑ったような気がした。

「じゃあ、ハードルが苦手な春日さんのためにこれからもっとハードル練習増やしましょうかねえ」
「えぇ!?」

先輩、あごに手をあてて考える仕草こそしてるけどすごく楽しそうなんですけど!?サディスト?サディストなのか?

ていうか‘春日さんのため’って・・・!その響きにちょっとときめいている私をはり倒したい。私はこれから始まるハードル三昧な部活と先輩の言葉の狭間でオロオロしていた。


すると、
「はよーさ、アレン」

目にも眩しい赤毛の男の人が先輩の肩をたたいた。「おはようございます、ラビ」と先輩が返したのを聞く限り、この人はラビというらしい。

私が‘ラビ’を珍しげに見ていると、バチっと目が合い、どうしたのか突然目がハートになった。

「ちょ、ストライク!!」
「「はあ?」」
先輩と私が声を揃えた。

‘ラビ’の勢いは止まらず、私の肩を掴む。
「まじで、あんた超好み!」
「えー」
そんなこと言われても

「あんた初めて見た。1年だろ?」
「はい」
「俺、ラビ。アレンと同じクラスなんさ!よろしく!」

ヘラッと人懐っこい笑顔を見せるこの人、先輩だったのか。私は勢いにおされ「よろしくお願いします」と返した。

「今度遊ばね?」
「はい?」

おいおい話が勝手に進んでくんですけど、しかも愛しい先輩の前で。それはいかん。それだけはいかんよ。

「すいません、私アレン先輩一筋なんで」
「へっ!?」

ラビ先輩の目が点になると同時にアレン先輩が「ぶっ」と吹き出した。そして「ちょっと、人を言い訳の道具にしないでくださいよ」と言う。私、嘘はついてない。

肝心のラビ先輩は何か燃え尽きたような顔をしている。ちょっと申し訳ないが、私は先輩しか見えませんまじで。


「僕、ラビがふられるの初めて見ました」
「そうでしょうよ、第三者がいる前でこんなグイグイ来る人自体稀ですよ」
「そうじゃなくて、ラビ結構モテるから」
「えっ!?」

こんなチャラいのに?

「アレン先輩の方がかっこいいのに・・・」
「・・・君、それ本気で言ってる?」

初めて先輩が私の「先輩かっこいい発言」に反応した!

「本気ですよ」
「へえ、」

先輩が難しそうな顔して私をまじまじと見るもんだから、私は恥ずかしくなって照れると、先輩は不思議そうに呟いた。


「変な人」



インパクト



20110818



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