>> 巷のリア充

パラパラとページをめくる音の他にはお互いの呼吸や鼻をすする音くらい。

「・・・・ねえ」
「んー」
「ひかりー」
「なあにー」

ひかりはこちらを見ずに返事をする。それにちょっとムッとする僕がいる。

「・・・ちょっと、ほったらかしにしないでくださいよ」
「あ、ごめんね。ちょっと待っててあと5巻読むから」
「どんだけ待たせるんですか嫌です」

そのままひかりはまた姿勢を戻しマンガに没頭し始めた。僕は退屈しのぎにひかりのすぐ隣に座り、マンガを読む彼女の髪を弄ぶ。しかし彼女は気にすることもなく黙々と読み進めていく。


おもしろくない。


僕が来てるのに僕よりマンガらしい。冷たい目で彼女を見つめても視線がぶつかることはなくて、いっそのことキスでもして強制終了させてやろうかと考える。しかし優しい僕は思いとどまり、また彼女の髪を弄ぶのだ。

しかしもっとおもしろくないことが起こった。



「かっこいい・・・」
「え?」
「すごいかっこいい」
「いや、あの」
「蓮君かっこいい!!」
「・・・・」


一瞬でも自分のことだと自惚れた僕を張り飛ばしたい。そんな僕を知ってか知らずかひかりはマンガのページを僕にズイズイ見せてくる。

「ほらっ蓮君!」
「フーンカッコイイネ」
「ちょっ絶対見てないじゃん!窓見てんじゃん!」

ちゃんと見てよーと僕のワイシャツを引っ張るひかりがなんとなく可愛くて僕は渋々マンガを見る。

「・・・微妙」
「ええ!?じゃあアレンは安堂君派かな!見てこれ安堂君!」
「どこがいいんですか」
「えーかっこいいし、優しいし、ちょっと強引なところとかキュンキュンする!」

たとえマンガでも彼氏の目の前でこう他の男を褒められるとイラッとする。

「じゃあ、僕と蓮君どっちがかっこいいですか」
「蓮く・・・アレンだよ?いたたたた」

いけない、ついつい手が出てしまった。

「ひかりってちょっと強引な人が好きなんですよね」
「違う!アレンのそれ違う!暴君だから!」
「僕というものがありながら」
「いたたたた」

頬をつねられたままのひかりが僕を睨みつけて反論してきた。

「アレンだってこの前しのまりに鼻の下伸ばしてたくせにー!!」
「はあ?僕だって男なんだから反応するものには反応す」
「さいてー!!」
「大体、僕がいちばん好きなのはひかりって言ってるじゃないですか!」
「私だってなんだかんだアレンが大好きなんだからっ」


「「・・・・え?」」


きっとお互いに頭に血が上っていたんだ。だんだん冷静になっていく頭がことの状況を理解していき、また急に体が熱くなる。

ひかりの持っていたマンガが床に落ちた。



なんだか馬鹿らしくなった僕はひかりが落としたマンガを拾ってペラペラとめくって読んでみる。それを見てしばらく唖然としていたひかりが恐る恐る僕に尋ねてくる。

「・・・アレン?」
「もう僕も暇だから読みます」
「それ、3巻。1巻から読みなよ」
「・・・ありがと」


そうして、また部屋に沈黙が訪れた。




巷のリア充




20111008


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