>> 06.後悔知らず

彼は笑顔でこちらを見ている。怖い。私は意を決して彼の視線から逃れ、部屋から脱出しようと試みた。


「あは!私バイトの時間があるからっ」


私は膝の裏で座っていたパイプ椅子を押して力任せに立った。椅子と床の摩擦音がいやに響く。

が、


「まあまあ、立ち話もなんですから。」


「んぎゃっ」


腕を引っ張られ、私は虚しくも最初の姿勢に戻ってしまった。彼の笑顔はピクリとも動かない。


「それで、木村さん。誰のことですか?」


「・・・いつから起きてたの。」


「会話になってませんね。言葉のキャッチボールですよ、ほら。」


「あ、痛い痛い。ごめんなさい。寝てなくても普段からかっこいいです。」


彼は握りつぶしそうな勢いで私の手を握る。爪、爪が食い込んでるっ!その間も笑顔。すげえ筋肉だなあ、おい。


ようやく手を放してくれた。血液が体を巡る感覚がする。うん、青あざかい?これは。


「見て、青あざ!」

「転んだんですか?」

「いや、君だよ!
たった今君が握りつぶそうとしたこの腕だよ!」

「あははっ」

「笑うとこじゃない!」


私はおもっくそ睨んだ。彼はそれを見てもっと笑う。目尻に涙すら見える。私、遊ばれてるのか。ああ、彼に会えるからって張り切ってバイトに来た私に跳び蹴りしたい。


「笑いすぎだよ。」

私は意識的に少し低めに言った。彼はすいません、と言う。でもまだ口からは笑いが漏れる。顔がどうしようも熱くなる。


「木村さんってからかうとおもしろいんですよね。」

「・・・そりゃどうも。」


だんだん頭に血が回らなくなってきて、目眩を起こしそうだ。こんな返答で精一杯。彼の雰囲気に完全に酔っている。



キュンって音がした
体内血液、フル回転

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