>> 05.オレンジ色 「いた・・・・。」 寝ている。 右耳を机にくっつけて。 部屋に差し込んだ西日が彼の髪をオレンジ色に染めた。風が彼の髪を揺らした。彼の匂いが私の鼻をくすぐる。 「・・・天使みたい。」 ぽつりと声が漏れた。 私は彼と机を挟んで向かい側の席に静かに座る。 彼は起きない。 私は彼が本を持っていることに気付いた。 好奇心が疼く。 私はそっと彼の手から本を抜き取った。 彼は起きない。 ていうか動かない。 熟睡だな。疲れてるのかな、と私の知らない彼の生活に思いを馳せる。 私は彼の本をパラパラめくってみる。あれ、このフレーズどっかで見たことあるな。ああ、そうかいっしょなんだ。と私のカバンから本を取り出した。彼の本と並べる。うん、いっしょだ。 彼は今私と同じ本を読んでる。このしおりがはさんである彼の本。この3ページ前の主人公の行動に驚いたんだろうか。私と同じ様に。そしてこの10ページ後の展開に彼は涙を浮かべるんだろうか。私と同じ様に。 10ページ後に涙を流す彼を想像したら、何故だかとても愛おしかった。 「ん・・・・・。」 彼が少し動いた。視線はまた彼に戻る。まつげ長いなあ。 ふふ、と自然に笑みがこぼれた。うん、本当に。 「黙ってればかっこいいのにね。」 「誰がですか。」 「いやいや、もちろん君のこ・・・・・。」 いつ起きたんだ 背筋が凍った。 prev//next back |