>> 03.優しさ?

「じゃあこれ、元のところに戻してきてください。」

「・・・・・・・・・・。」

「返事。」

「・・・はい。」




渡されたCDたちの数があまりにも膨大すぎて、彼の顔は見えなかった。今日はバイト2日目。まず最初のお仕事がこれである。数が多すぎる。仕方がないので数回に分けて運ぶことにした。



「何やってるんですか。アルバムは五十音順に並べるんですよ。」

「そうでしたっけ」

「僕が嫌なんです。」

「・・・・・几帳面。」

「何か言いました?」

「別に・・・あいたたたた」

彼が私の頬を引っ張る。痛い、痛いよ!


「これ、お願いします。」

「はーい。」



私はアーティストの名前を確認して棚の表示と見比べる。えっと、スの段は・・・・


「・・・・・・・。」

「どうしたんですか?」


彼はニコニコこっちを見ている。はめられた。


「届きません。」

「え、何がですか?」

「・・・・・身長が。」

「ぶっ」


彼は哀れな物を見るように私を見て笑いをこらえていた。


「知ってたくせに」

「そんな意地悪なこと僕がするわけないでしょう?」

「どの口が言ってんだ!」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。」


と言って彼は私の真上に影を作った。彼は身長が私よりだいぶ高くて私を照らしていた照明を遮ってしまった。私は嫌でも彼を見上げるかたちになってしまって、なんだか悔しい。彼から逃れたい。ありったけの眼力で彼を睨んだら、彼はクスッと笑った。


「ちーび。」

「なっ!!」


そう言って私が持っていたCDを取ってひょいっと元の位置に戻した。


「あとはよろしくお願いしますね。木村さん。」


僕はレジがあるので、と彼はレジの方に歩いていった。


「・・・・・最悪。」


私は残りのCDを戻そうとカゴの中に手を入れた。残りのCDは全部私の手が届くところのものだった。彼を見ると、彼は笑顔でお客さんと喋っていた。



彼の優しさ?
だとしたらあまりにも分かりにくすぎる。

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