「知略衆にすぐれたイーアペトスの子よ、 そなたは火を盗み、わしの心を騙らかして得意の様子だが、 それはそなたにも、この先生まれくる人間どもにとっても大いなる悲嘆の種となるのだぞ。 わしは火盗みの罰として、人間どもに一つの災厄を与えてやる。 人間どもはみな、おのれの災厄を抱き慈しみつつ、喜び楽しむことであろうぞ。」 こういうと人間と神々の父は、カラカラとお笑いなされた。 その名も高きヘーパイストスに命じて、急ぎ土を水で捏ね、 これに人間の声と体力を注ぎこみ、 その顔は不死なる女神に似せて、 麗わしくも愛らしい乙女の姿を造らせた。 またアテーネーには、さまざまな技芸と、精妙な布を織る術を教えよと、 黄金のアプロディーテーには、乙女の頭に 魅惑の色気を漂わせ、悩ましい思慕の想いと、四肢を蝕む恋の苦しみを注ぎかけよと、 また神々の使者、アルゴス殺しのヘルメイエースには、 犬の心と不実の性を植えつけよ、とお命じなされた。 『仕事と日』(ヘーシオドス作・松平千秋訳)より 「パンドーレーの物語」一部抜粋 back |