そこで、目が覚めた。 白い、これは天井だ。薄ぼんやりとしているが、そうだ、さっき日が暮れてしまったから、ここはまだ夜になりきれていないのだ。ざざあん、ざざあん、と。遠くに潮騒も聞こえてくる。耳をふさいでしまいたい。潮騒が鳴っている、責めるように、あれは私を責めるために震えているのだ。 身をよじろうと試みるもわずかに腕を持ち上げるだけに終わる。まとわりつくシーツがひどく不愉快だ。海が近いせいか独特の湿気を含んだ白い布が、今は人肌に温まっている。それがひどく、不愉快だ。 かたわらで、いつからいたのだろう、悪魔の形相をした医者が言った。 「五分の超過だ。取り込まれるなと忠告したろう」 その諫言に耳を傾けてはならない。悪魔なのだからそれは等しく甘言だ。悪魔の言葉が、潮騒が、耳鳴りに変わる。耳をふさごうとしてももう遅いのだ。私はすでに悪魔にこの魂を売ってしまったのだから。 目をそらした先、隣の寝台には彼が眠っている。私はそう思った。窓の暗がりに反射して白い寝台が映っている。胸元までかけられたシーツはかろうじてまだ上下している。安堵、それと同時に恐怖が寄せてくる。私は、どうしてだか彼の顔を直視することができない。まだ駄目なのだ。ここにいるのは彼ではない。私は動かない身体を乗り出して、窓の景色を遮断した。 「これ以上深度を上げると戻れなくなる」 悪魔が何やら言っている。今の私にはどうでもいいことだ。 枕元、ベッドに沈んだ銃口のことを想う。 弾丸は六つに一つ。 ならば私は何度でも引き金を引こう。 望む結末が得られるまで、何度でも。 |