桜にかしずく、女は化生である。桜には女が埋まっている。だからうつくしく花を咲かすのだという。確かめてごらんになられますか、と女が問う。
「人の墓を暴くような真似、しやしませんよ」
　僧は薄く微笑んだ。
「そこには何もござらんせん。埋めるは花のみでござる」
「花というと、」
　傍らに、女が再び僧に問う。
「桜でございますか」
「桜でございましょう」
「桜を、埋めますか」
「桜に、埋まるのではござらんか」
「お坊様、それでは妾もお坊様もひとつ花の下にございます」
　女は傍らの幹に手を添え、僧の顔を食い入るように見つめた。
「妾どもも、埋まっておりますか」
　あたりは一面、無数の桜の雨である。桜弁を敷物にする女にも、地に胡座をかく僧にも、いずれにも平等に、頭に、肩に、降り積もる花弁を振り払いもせず、僧と女は花を浴びていた。
「此はそなたの桜でござるか」
　僧は女の隣にそばだつ大木を仰ぐ。空を覆わんばかりの花枝、広々と。花弁は落ちれども落ちれどもいつ尽きるとも知れない。視線を落とす。女は変わらず幹に寄り添っていた。
「此はそなたご自身か」
　堂々とした立派な幹には、ちょうど女の頭の横あたり、真一文字の傷が走っている。
「お坊様、お聴きくださいますか」
　女が尋ねる。
　応、と僧が足を組み直す。
「拙僧でよければ彼岸涅槃の渡りをいたそう。話されよ」