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「ぼうれいはあかつきになく」おまけ

(2014/06/17)

・「ぼうれいはあかつきになく」のおまけ
・「月上ゲ町奇譚」×「怪人と少年探偵」
・手前味噌800%のセルフクロスオーバー
・何でも笑って済ませられる人向け



「それじゃあ君が探しているその怪人が、この町へ来たってのかい?」
 キッタくんはコーヒーカップを持ち上げて、相手を推し量るように問いただした。
「この――この月上ゲ町に」
「ハイ、おそらくは」
 そう言って少年はがっくりと首を落とした。ただでさえ小柄な体が余計に小さく見える。少年はサスペンダーの紐を指で直して、下がり眉をこちらに向けた。
「ぼくは『あいつ』を追いかけてきました。あいつのことですから放っておけば何をしでかすかわかりません。ああ、こんなときに先生がいれば……」

 そう溜息をつく顔があまりにもしょげかえっているので、ぼくとキッタくんは思わず顔を見合わせた。彼女はというと、この状況に悩んでいるのかコーヒーが苦いのかわからないような顔をしている。たぶんぼくも同じような顔をしているはずだ。

「なにもこんなときに来なくても……」
「仕方がない。トラブルというのは重なるものさ」
 そうは言うものの、キッタくんが状況を喜ばしく思っていないのは火を見るより明らかだった。当然だ。いくらトラブルが重なるといってもこれはやりすぎだ。いったいこの町でなにが起こっているんだ?

「それで君は僕らにどうしろと言うんだい? まさかその怪人を捕まえろなんて言うんじゃないだろうね」
「まさか! あいつを捕まえるのはぼくと先生の役目です。聞けばあなたたちは過去何度もぼくらのような存在を救ってきたというじゃありませんか」

 ……それはかなりの誤解だ。好奇心で首を突っ込んで(大体キッタくんがだけど)、死にかけた(こっちはぼくだ)覚えしかない。けれど少年は熱く弁舌を振るっている。

「ぼくはまだ『少年探偵』の肩書きが取り戻せないんです。あいつに対抗するためには『少年探偵』でなければいけないのに。だからお願いです。ぼくの肩書きを取り戻す手伝いをしてくれませんか?」

 なんだそれは。ちょっと言ってる意味がわからない。
 キッタくんが腕を組んで考え込む。目は熱弁する少年を見据えている。なにも言わないキッタくんに代わって、ぼくが質問する。
「漠然としててよくわからないんだけど……具体的に何をすればいいの」
「方法ならわかってるんです!」
 テーブルに身を乗り出し、食い気味に答えが返る。

「ぼくらが来た『忘れられたものが来る最後の場所』に先生は姿を現しませんでした。だから先生はまだこちら側のどこかにいるはずなんです。先生に会うことができればぼくは先生の助手として『少年探偵』に戻れるはずです。
だから先生を――『名探偵』を探してください」


******


(月上ゲ町に蔓延る有象無象の怪奇!)
(それはすでに我らが主人公の背後に忍び寄っていた!)
(悪しき怪奇の凶刃がその身に迫る!)
(そして嗚呼なんたることか!)
(我らが主人公はなすすべもなく倒れ伏すのであった……)


******


 なにがどうなっているのかわからない。
 あと少しで化け物に殺される、というところで見覚えのある姿が飛び出してきた。緑色の甲羅を背負った着ぐるみ――『メロンガメくん』だ。彼は寸での所でぼくと化け物の間に押し入り、なんと化け物の攻撃を両手で弾き飛ばしたのだ!
 守ってくれた? 町のゆるキャラが?

(フフフフフフフ……)

 その怪しい笑い声はメロンガメくんの中から聞こえてくる。
 ぼくはおそるおそるその緑色の背中に声をかけた。
「あなたは……?」
「ハハハハ……やれやれ。見ているだけのつもりだったのだがな」

 言うが早いかメロンガメくんはとう!と短いジャンプをした。瞬間、どこからともなく風が巻き起こる。
 目を開けたそこにメロンガメくんの姿はない。その代わりに、真っ赤な布――赤いマントがひらひらとはためいていた。
 背の高い後ろ姿。頭にはなにかマジシャンのような帽子をかぶっている。
 なにより目立つ真っ赤なマント。
「……怪人赤マント?」
 キッタくんが以前に語ってくれた名前が頭をよぎった。

「失敬な!」
 激しい否定の声が飛ぶ。
「あのような血塗れの殺人者と一緒にしてもらっては困る! 何より血を嫌う紳士怪盗とはわたしのことだ。冗談もほどほどにしたまえ。……尤も、わたしを彼のルーツと考える声もあるようだがね。わたしとしては心外極まりない」
 赤いマントが芝居がかった動きで両腕を広げた。

「そうだ!
 我こそは黄昏に赤いマントを翻す者!
 誰にも侵されない美学で司法に背く正体不明の化け物!
 日の本に傘差さず闊歩する幽霊!

 ――――そうだ、百の顔を持つ怪人とはわたしのことだ」


 唖然とするぼくに怪人は背中で笑ってみせた。
「きみたちにはいつぞやおれの後輩を助けてもらった礼がある。
貸しを貸したままにしておくのはおれの流儀に反するのだ」


******


(キッタカタリ、皆を集めてさてと言い)

――では、語って聞かせよう」

「今回起きた一連の事件は、個々に見ると偶然に発生したように思える。探偵の逃亡、怪人の失踪、少年探偵が出てきたのもそうだ。一見これらは町で起きている■■■の件とは無関係に見える。
しかし全体を俯瞰して見ると、無関係のはずの両者をつなぐ意図が張られていることに気付くんだ。
(中略)
全てある人物により仕組まれたシナリオだったんだよ」

「■■■は憐れな被害者の一人などではなかった。巻き込まれた振りを装って、全て、最初から彼の思惑通りに進んでいた。――おそらくはこの結末すら計算の内だったはずだ。全てを事前に見通していた彼だからこそ、うまく立ち回れたんだ。彼は表面では演者の一人として振舞う一方で、実はこの事件の脚本兼監督。被害者と犯人が同一人物というのは推理小説にはよくある筋書きだね。そう、こんなことができたのはただひとり――

(指をさす、さながら探偵のように)

「犯人はあなただ」



追記

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