ごみ箱 | ナノ
マルコ生誕
どうしよう。忘れてただなんて言ったら、あのドSのことだ。どうなるだなんて考えたくもない。
今、私は食料庫の一番奥に置いてある酒樽の裏に身を潜めている。別に誰かに追われているわけではない、とある人物に見つからないように隠れているだけだ。
とある人物、それは私がこの世で1番恐れていると言っても過言ではないような人物だ。
あの人に逆らうなんてこと、私には何年何百年経とうと到底不可能なことだ。
ああ、もう怒られるのがオチなんだ。きっとそうに決まってる。素直に「忘れていました」って言って謝ろう。謝って、いい酒渡せばいくらあの人でも殴ったりはしないだろう(多分)。そうだ、その通りだ。いくらあの人でも誕生日をお祝いされたら嬉しいはずだ(もう過ぎてるけど)。
そう、誕生日。
私はあろうことか、自分の恋人の誕生日をすっかり忘れていたのだ。
普通なら宴やらなんやらして仲間たちで祝う。今回もそれだった。しかし、しかしだ!(ここが重要だ)私には父さんから任された任務があったのだ。しかもちょうど誕生日の1週間前から誕生日の1週間後までの長期任務が。
もちろん、忘れていた私も私だ。でも任務のことで頭がいっぱいだったんだ、仕方ない。仕方ないんだが、世の中そんな甘くない。
「どう切り出そう…」
「俺なら『アタシがプレゼントよ!』とか言われたら嬉しいけどなあ」
「そんなことしたって鼻で笑われるだけだってば」
「マルコだって男だぜ?愛し〜い恋人にそんなこと言われたら我慢できるわけねえだろ」
「はっ、奴隷のような扱いを受けるだけええええええええ!!!?い、いいいつからっ!?」
独り言とかもう私末期だな…とか考えていると、いつの間にか隣に座っていたサッチ。
び、びっくりした……いや、ほんと、マルコじゃなくてよかった。
「マルコなら部屋にいるぜ」
「いや、聞いてないし」
「ほら頭にリボン付けてやるから」
「いらないしやらないし」
「赤にするか?青にするか?マルコなら青か?」
「ちょ、触んないでよ」
「あ、動くなって!…あーあ堅結びになっちまった」
「はあ?」
勝手にサッチが触ってきた部分を触ってみると、そこには何やら紐のようなものがついていた。
ああもう!どんな力で結んだんだコイツは!軽く引っ張っただけでは取れない。どうしてくれるんだ!
「さいあく…」
「おいおい、もっと感謝しろよ。俺はお前がうまくいくように手伝ってやったんだからな!」
「だからって…」
『アタシがプレゼント』ってアブノーマルな感じするんだけど…いや違う、感じじゃない、そうなんだ。だいたいサッチとマルコが同じ感覚なわけないだろう、サッチが喜ぶことをしたってマルコが喜ぶとは限らない。コイツはそれをちゃんと理解していないのだろう。
「あのね、私は、」
「サッチ!てめえ食料取りに行くのに何分かかってんだよい!」
「!?」
な、なんでマルコが!部屋にいるんじゃなかったの!?
バッとサッチの方を向くと、『あ!いっけね!』みたいな感じの顔をしている。お、おおお前ーっ!
「……はなこもいたのか」
「う、うん」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
き…気まずい…!いや別に気まずいような要素はないよ!誕生日のこと以外は!
「おい」
「うわ!」
ぐいっと引っ張られた体。目の前にはマルコ。
ど、どうしよう…
チラリとサッチの方を見てみると、『ほら!今だ!言え!』と言うような(いや完璧にそれだ)動きをしている。
マルコさえいなければ今頃私はサッチを殴っていただろう。サッチめ…他人事だからっていって…(それともこれはサッチなりの気遣いなのだろうか?)
そんな私を余所にマルコは私の髪に触れてきた。主に触っているのはサッチのつけた、例の青いリボン(蝶々結びじゃないけど)。
「頭に何つけてんだよい」
「えっと…その…」
「堅結びになってるよい…」
「え!あ、」
マルコの指が私の髪を触るのはなんだかくすぐったい。ああ、こうやってマルコに触れられるのは久しぶりだ。
チラリとマルコを見てみると、マルコはいつもみたいなニヒル笑いじゃなくて