ごみ箱 | ナノ
マルコ


なんかむかつくんだよね。あたしにだって反論する権利はあると思うんだよ。なのにさ、まるで自分が正しいって。なんなの?あたしが悪いわけ?あたしだけが悪いの?何も知らないくせに、偉そうに言ってるのってそっちじゃないの?あたしはあんたの言いなりになるロボットじゃない。私は人間なの。


「って思うんだけど、どう思う?」


はなこは息継ぎをせずに言うと、俺に意見を求めてきた。

はなこと俺は仲間でもなんでもない、ただの道端で会った、他人のような関係だ。
ただし、はなこは自分の親と意見が合わなくて家を飛び出してきた家出少女。
俺が町を歩いていると、町のチンピラに絡まれている所に偶然会った。
本当なら面倒事には巻き込まれたくないが、見てみぬふりをするのも気が引ける、と言うことで助けてみるとこんな事情。


「お前にちゃんと生きてほしいんじゃねえのかよい」

「やだよ、あんな人の言いなりになるなんて。あたしにはあたしの生き方がある、誰にも邪魔されたくない」

「どんな?」

「…笑わない?」

「笑うわけねえだろ。人の夢を笑う奴はただのクズだよい」

「止めない?」

「俺が他人の夢をどうこう言える権利は持ってねえよい」


ふうん、と言ってそっぽむくはなこの顔は少し嬉しそうな顔に見えた。
はなこは腰掛けていた樽に足を上げ、体育座りをし、顔を俯けた。
そして、そのまま顔を上げずに口を開いた。


「私ね、本当は海賊になりたいの」

「……へえ」


言っておくが、俺ははなこに俺が海賊であることを教えていない。
だからはなこは俺のことを、旅人か商人かにしか思っていないだろう。

にしても、海賊…か。


「それをね、お母さんたちに言ったら怒られたの。『馬鹿なこと言わないで!』って」


頬を叩くってオプション付きでね!と、ほんのり赤くなった頬を指差して笑うはなこ。
ああ、俺はてっきり先程のチンピラにやられた傷かと思ってたよい。


「そりゃそうだよい。可愛い可愛い娘が海賊になる、とか言えば誰だって止める」

「子供の夢を応援するのが親の役目なんじゃないの?」

「…都合のいい奴だよい、お前は」


子供なら子供らしく、親の言うことぐらいちゃんと聞けよい。
そう思いながら俺はため息をつく。
俺にとったらどうでもいいこと。
しかし、こいつにとったら一大事。


「海賊ってさ、強くて、頼もしくて、何より自由じゃない?」

「頼もしくは違うんじゃねえのか?」


はなこたちのような一般市民には俺たち海賊なんてものはただの悪党でしかない。
それを頼もしい、だなんて言うのはお門違いなんじゃないのかと思う。

俺がそういうとはなこは「頼もしいよ」ともう一度、そう言った。
俺を真っ直ぐな瞳で見ながら。


「だってマルコは頼もしいもん」

「…俺がいつ海賊だって言ったんだよい」

「言ってないけど…褒めてあげたんだよ!」


なんて、口を尖らせて言う辺り、何を言ってもやはりガキだな。
これを口に出して言うと怒られてしまうだろうが…。
そんなことよりそろそろ船に戻ろうか…と考えた時、


「ねえ」


不意にくいっと服の裾を引っ張られた。
はなこの方を向くと、こいつはまたもや真っ直ぐな瞳でこっちを見てくる。

まだなんかあるのかよい…溜め息を吐きながら、「なんだ?」そう言おうとした俺より前にはなこがとんでもないことを言い出した。


「私を連れて行ってよ、」


海賊なんでしょ?

そう言うはなこに俺は耳を疑った。

自慢するわけではないが、俺は白ひげ海賊団の1番隊隊長で不死鳥のマルコとも呼ばれ、賞金額もまあまあいい方だ。


しかし、しかしだ、こんな平凡な街。
チンピラはいても海賊とは無関係な街の人間が一体どうして俺を海賊だと判断できるのだろうか?

頭が混乱している俺にまたもやはなこは口を開いた。


「私ね、生まれつき変な能力があるの」

「……」

「みんなの声が聞こえる能力。何考えてるか、何しようとしてるのか、全部分かる」

「!」

「だから、他人の悪口まで分かるの」


ああ、なんだ。
じゃあ最初っから俺が喋らなくともこいつにはわかっていたのか。
今、この瞬間にもこうやって考えていることなんてこいつにはわかっとしまうのか。


「とんだプライバシーの侵害だな」

「しょうがないじゃん。聞きたくもない言葉聞くの我慢してるんだから」

「ああ…」

「で、どうなの?」

「あ?」

「私を海賊に入れてくれるの?」


はなこの真っ直ぐな目を見ていると何故か目を反らせない。
震えている手、泣きそうな顔、全てがまだ俺の半分にも達していない子供の表情だ。


「子供扱いしないでよ」

「子供だよい、お前は」


無意識に考えていたことまで分かっちまうのか、こいつは。

むっとした表情をしたはなこが掴んでいた俺の服の裾を解き、俺ははなこに小指を差し出す。
当然はなこはぽかんとした表情をする。


「ほら」

「なにそれ」

「お前がもうちょっと大人になったら連れてってやるって約束だよい」

「なっ、」


なんで今じゃないのか、そんなもん簡単だ。
お前のことを思ってくれている親がいてくれるってのに、その親を悲しませることをしちゃいけねえ…って俺は思う。


「海賊のくせに」

「……ほんと、にな」


海賊のくせに俺が何言ってんだろうか。
実際の親なんて悲しませるも何も、もう顔すら思い出せないと言うのに。

そんなやつが他人にどうこう言う資格あるのかすら疑う。




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