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ポートガス・D・エース
▼笑顔が1番!


「ぐあっ!」

「……へ?」


爆音と共に聞こえてきたのは誰かの叫び声。
襲撃かと思い、声のした方へ顔を向けた瞬間、横から何かが飛んでくるのが見えた。
そして、それは私にぶつかってきて、私は思いっきり壁に激突した。

痛い、かなり痛い、痛すぎて悲鳴を上げるのすら忘れていたくらい。


「お前またかよ。いい加減にしとけよなー」


げらげら笑うクルーたちの声が上から降ってくる。
また?いい加減に?
一体何を言っているんだろうか。
それより体がすごく重い。
体を打っただけだから、動かせるはずなのに何故かまるで体に鉛でも乗っているかのように重い。

ああ…なんだって言うんだ一体。


「すげえ音したけど何かあったのか……ってお前かよ!」

「こいつ学習能力ねーって絶対!なあ?」

「ちっ…うるせえよ…」

「うるせえも何も……ってお前、はなこ潰してんぞ」

「は?………うわ!」

「つ、潰れて…なんか…」


ぱっと軽くなった体。
ああ…やっぱり何か私に乗っかってたんだ。
真っ暗だった視界に映ったのは、そばかすが可愛らしい青年だった。
こんなガタイのいい人に乗られたらそりゃ動けなくもなるよね…

青年は起きる気もなく倒れたままでいた私を急いで起こしあげた。
い、いたい!そんな無理やり起こさないで!


「わ、わりい!人がいるとは全く気がつかなかったんだ!ケガはないか?」

「へ、平気!平気!これくらいいっつもどっかのリーゼントとかどっかのバナナにやられてるから!」


な…なんていい子なんだ…!
これくらいのケガなんて、なんてことないよ!
マルコとかサッチとかの日常の嫌がらせに比べたら屁でもない!


「そ、それより君の方がケガしてるよ!手当てしてあげるからおいでよ!」


傷だらけの青年の手を引っ張って医務室に連れて行こうとした。


「っ、放せ!」

「わっ」


ばっ、と振り払われた手。
青年は、しまったという顔をしていた。

なんで、


「…っ」

「あ、」


青年は私に背を向け、立ち去ろうとした。
しかし私はすぐさま彼の腕を掴んで引き止めた。

なんで、


「はな…」

「医務室連れてってよ」

「……は?」

「人にケガさせといてどっかに行くの?それって人としてどうかと思うけど」


ケガっていうほどのケガなんてしてないし、 別にほっといてくれたってよかった。
でも、でもさ、そんな悲しくて泣きそうな顔されたら私がほっとけないよ。


「…さっき平気だって言ってたじゃねえか」

「うん、でも痛いんだもん。誰かさんが乗ってきたせいで」

「なっ、あれは俺のせいじゃ…!」

「どうでもいいけど、医務室に連れてってくれるの?くれないの?」

「んだよ…」

「はあ?はっきりしなさいよ、あんた男でしょ」

「…あー!仕方ねえな!ほら、」

「…へ?うわっ」


ふわっと宙に浮いた体。
青年の手が私の膝の裏と肩にある。
そして、青年との距離はすごく近くて、青年の心臓の音が聞こえる。

ふと上を向くと青年と目が合った。


「これってさ…」

「…お前が言ったんだろ」


顔を赤くさせて、ふいっと顔を背ける、そんな青年に私は俗に言う「お姫さまだっこ」とやらをされていた。


「…ぷ、」

「笑ってんじゃねえ!」

「だってさあ…顔、真っ赤…ふふっ」

「あーあーあー!」


ふてくされた顔。
焦った顔。
ムッとした顔。
真っ赤な顔。
私は君のこと全く知らないけど、悲しくて泣きそうな顔よりもそっちのが合ってるよ。



「…ありがとな」


数日後、照れくさそうに笑ってお礼を言う青年を見て、「笑ってる方が似合ってる!」と思ったのは言うまでもない。



(てか誰?)
(エース!ポートガス・D・エースだ!以後よろしく!)



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