文章2 | ナノ
御幸一也
▼奴はただのSっ子


「ナニコレ?」

「どれ?」

「これ」

「い"っ!!」

私は、ばかあ!!と叫んで寝ころんでいる私の足元にいた一也を蹴る。いてっ、と小さく叫んだ一也はそれでも私の足を触ってくる。こいつは…

「痛いってば!」

「だから、これ何って聞いてるだろ」

「…見てわかんないわけ?」

あんたほんとにあの天才キャッチャーなわけ?観察力やら洞察力やらよく分かんないけど、そこらへん凄いんじゃなかったわけ?
一也はぐいぐい紫色になっている部分を圧してくる。だーかーらー、痛いんだってば!

「いたい!」

「あおじんでる」

「見たら分かるってバカ」

「なんで?」

「昨日の体育でボールが当たった」

私の足にできた紫色になった部分、それは昨日の体育でできたもの。

そして昨日の体育はソフトボール。

経験者だかなんだか知らないけど、勝手に主要メンバーに入れられていた私(経験者とか言うけど小さい時に近所の男の子とキャッチボールした程度だ。)は飛んできた低い内野ライナーのボールを受けることもできず、避けることもできず、身動き1つしなかった私の足に当たったのだ。

「どんくさい奴」

「そうですねー天才キャッチャー御幸一也様ならそんなヘマしませんもんねえ」

「なんだよそれ」

ははっと笑って、一也はその紫色になっている部分を撫でている。

なんで撫でる。
まあ別に痛くないからいいんだけど…

「女の子?」

「なにが?私が?」

「ちげーよ」

一瞬、ケンカを売られたのかと思ったが、そうではないらしい。「はなこが女の子じゃなかったら俺付き合ってねーし」と言ってきた。じゃあ何が女の子なんだ?

「ボール打った奴」

「ああ、男子だけど」

「野球部?」

「んー…あ、」

「誰?俺の知ってる奴?」

知ってる、と言えば知ってるだろう。なんせ、そのボールを売ってきた奴はあの野球界では少しばかり有名な奴なのだから。

しかし、今教えれば絶対にめんどうなことになりかねない。何故ならコイツが御幸一也だからだ。

「誰?」

「…知ってどうすんの?」

「練習試合のときにやり返す」

…こう、笑顔で言われて、誰が言うと思う?

ボールを当ててきた鳴はすっごくワガママな奴だけど、基本的いい奴だ。友達を売るなんて真似、私にはできない。いくら鳴の投げる球が速くても一也もそこそこの腕がある(一也も野球界じゃ有名らしいが)。もし万が一、一也が本当にやり返したらどうなる?チクった私が責められるに決まってる(主に鳴に)。そんなこと断固反対だ!

「誰?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「…いだだだだだ!!!」

「はなこがさっさと言わないからだろー」

こ、こいつ!
ご丁寧に、蹴られないようにか反対側の足も持っているので、私は逃げようにも逃げれない。はははは、と楽しそうに笑うこの男を前に私は逃げる道を必死に見つけようとしていた。

「どうせ鳴とかだろ?」

「ち、ちちち違うよ!」

「よーし、鳴だな」

「違うってば!!」

なんてこった!私はそんなに顔に出やすいのか!

痛みと焦りであたふたしている私に心底楽しそうにしているコイツはもうやり返すために吐かせたのではない、と私は悟った。

コイツはただ



(いい加減はなせばかー!)
(いやー楽しくてつい…)
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