∠ 糸は決して交わらない(SS)
(目につく度に)
(近寄ってくる君が)
(可愛くて仕方ないんだ)
『ティードさんティードさん』
振り向けば、いつも隣に居る少女。少女とは、1日に何十回と無く顔を合わせている。愛らしい表情を浮かばせ小走りで俺の元へと駆け寄ってくるのは、今となっては見慣れた光景。
『どーしたの?お姫様』
俺は、膝を曲げ少女の背丈に合わせる様に屈んだ。少女は満面の笑みを少し崩し、拗ねた様に頬を膨らます。
『お姫様じゃないですー。桃は桃なのですよー』
『ははっ。ごめんねお姫様』
ぷう〜と口に溜め込まれた空気により、頬が風船みたいに膨らむ。それがついつい可笑しくてからかいたくなるのは仕方ない。
『桃ちゃん今日は早いね。偉いじゃん』
そう、今は早朝。いや、深夜と言った方が正しい時間帯かな?
辺りは薄暗く普段ならまだ眠りに入っていても可笑しくない時間だ。
『それを言うならティードさんもですよー』
少女は首を傾げ、可愛らしく笑う。
『どうしたんですか?恐い夢でも見たんですか?』
心配そうに背伸びをし、顔を除き込んで来る少女。その瞳には、先程迄の光が宿っていなかった。たまに、見せる感情が無い人形の様な顔。本人は無意識なのか意識的なのか知らないが、俺はそれを見るのが好きだ。俺と似ている上辺だけの性格。嫌いなものを圧し殺して、嘘の自分を偽るもう一人の自分。それがたまに姿を表す。
俺が、この少女を気に入ってるのはもう一人の自分を見てる様だから。自然に、笑みが溢れる。
『そうそう、夢見が悪くてさ』
『そうなのですか?心配なのですよ…!』
眉を下げ上目遣いで見てくる様子は何時ものあの可愛らしい少女だ。ああ、戻ったのかと同時に残念な気持ちに包まれる。
『でも、心配しないで。桃ちゃんの顔見たら元気出たからさ』
俺がそう言えば少女は嬉しそうに歯を出し、両手を握りしめた。
『良かったです!ティードさんが元気なら桃も嬉しいのですよ』
"じゃあ、桃はおトイレなので行きますね!"そう言うと、またトテテと小走りで、俺の横を通り過ぎる。すれ違う時、ボソリと何かを呟いていた様だが聞き取れなかった。少女が、闇に消えて行くのをボンヤリと眺めながら自嘲気味に口が弧を描く。
『やっぱ可愛いーや』
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