蠍蝗
 

□ツギハギ女王と南の旅人

 いばらの王冠、びろうどのドレス、あおがねの玉座。ツギハギ女王は氷の城に住まわれる。
 ツギハギ女王はうつくしいものがお好き。いつもぎやまんの遠眼鏡で城下を睥睨して、うつくしいものをお見付けになると即座に城に呼び、うつくしいものの一番うつくしい部分をちぎって、高貴な御身に継いで接ぐ。
 ツギハギ女王はうつくしいものからちぎるだけではなくて、ちゃんと代わりのものを用意してお返しになる。
 例えば脚がうつくしかったパン屋の娘には、脚をちぎる代わりに山羊の脚を継いで接いでくださった。山を越えた隣町に住む祖母に会いに行くのが楽になったと、娘はとても喜んだ。
 例えば瞳がうつくしかった見張り台の旦那には、瞳をちぎる代わりにふくろうの瞳を継いで接いでくださった。闇の中でも遠くまで見通す瞳は真夜中の見張りにはちょうどいいと、旦那はとても喜んだ。
 例えば指がうつくしかった服屋の奥さんには、指をちぎる代わりに五匹の蚯蚓蛇を継いで接いでくださった。上下左右、自由自在に動く指は裁縫にはもってこいと、奥さんはとても喜んだ。
 ツギハギ女王はそのように城下のうつくしいものの一番うつくしい部分をちぎっては継いで接いでをなさったので、城下にはもうツギハギ女王を満足させられるうつくしいものはなくなってしまった。それでも引っ切りなしに訪れる旅人の中には稀にうつくしいものがあったので、ツギハギ女王はそういった旅人達を城に呼んで一番うつくしい部分をちぎっては継いで接いだ。
 ある暑い夏の日に訪れた旅人は髪がうつくしかったので、すぐに城へと招かれた。しかし南の国からやってきた旅人には氷の城は寒すぎて、旅人は震えが止まらない。震える手でうっかりカンテラを鞄から落としてしまい、氷の城はたちまちのうちに炎に包まれた。
 炎に焼かれてうつくしいものがうつくしくなくなってしまうと、ツギハギ女王は一目散、炎に舐められて溶け落ちる城から遁走なされた。けれど夏の陽射しはツギハギ女王には暑すぎて、ツギハギ女王はあっという間に腐って崩れてどろどろのぐちゃぐちゃになってしまわれた。
 それを見付けた城下の人々、腐ったツギハギ女王のあまりの臭さ、ツギハギ女王とは気付かないまま、今は使われなくなった深い深い涸井戸の奥の底の底、投げ棄てて厳重に蓋をした。
 いばらの王冠、びろうどのドレス、あおがねの玉座。ツギハギ女王は氷の城に住まわれた。
 いばらの王冠(ばらばらに折れて砕けた)、びろうどのドレス(びりびりに裂け肉に埋もれた)、あおがねの玉座(真っ赤になって燃え落ちた)。ツギハギ女王(腐りきって菌の苗床)は深い深い涸井戸の奥の底の底、誰にも知られず住まわれる。

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