蠍蝗
 

□神さまどうして

 ムロの里では何十年かに一度だけ、角の生えた女の子しか生まれない年がある。その年に生まれた子供は一人として例に漏れず、大小様々な角を頭に抱いて生まれてくるのだ。これは遥か昔、武勇に秀でた男が力試しに里の水源に棲む水神さまを傷付けた祟りなのだという。
 角の生えた子供は身体の成長が早く、中身は赤ん坊のまま一月で七ツぐらいの見掛けにまで成長する。
 そうして生まれて一月が経った子供は晴れ着を着せられ、漆で塗った箱に詰められて里を横切る川に流される。里の境界まで川を下った箱はそこで待ち構えていた男たちによって回収され、箱を開くと子供と一緒にその取れた角が入っていて、その儀式を終えることで角を生やして生まれてきた子供は普通の子供と同じような人生を歩むことができる。
 ところが角の生えた子供のうち、たった一人を詰めた箱だけは水の流れに逆らい川を上っていく。川を上った子供が生きて里に戻ることはない。選ばれたただ一人は水神さまの花嫁になるのだ。これは喜ぶべきことで、選ばれた子供の両親はその晩決まって赤飯を炊く。
 それからまた数週間が経った頃、長い年月を水の中で過ごしたような、今にも崩れそうな苔むした漆の箱が里に流れ着く。水神さまは律儀なようで、もういらなくなった前の花嫁をきちんと返してくれるのだ。
 かくいう私も角を生やして生まれてきた子供で、その年に水神さまに選ばれたのは私の双子の姉だったそうだ。私と姉はこめかみの右と左にそれぞれ一つずつ、二人で一つのような角を生やして生まれてきたのだという。
 そんなふうな少し変わった出生をした私も高校受験を来年に控え、この頃両親は「水神さまの花嫁になった姉さんの分も頑張って良い高校に行きなさい」と、壊れた目覚まし時計のように繰り返し、私は私で頑張っているつもりなのに少しだけやさぐれた気分になる。
 そんな時には未だに水源で水神さまと暮らしているらしい姉に思いを馳せ、親の期待も受験も仕事も関係のない人生を羨んで、また少しやさぐれた気分になってしまうのだ。まるで瓜二つの双子だったそうなのに、神さまどうして。


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