蠍蝗
 

□オーピントンの妖鳥

 オーピントン周辺にはズウという生き物がいる。ズウはヒトにも似た獅子の顔を持つ妖鳥で、ぱきぽきと木の枝を折るような声で鳴く。
 ズウは生き物の目玉を好むが、鳥であるにも拘わらず嘴を持たないので、啄むことができないのである。では如何にして目玉を食うかというと、小枝などの細い棒を口にくわえ、器用にえぐり出して食うのだ。とはいえど棒を使うには熟練がいるようで、若い個体が棒をくわえて苦心している様子を時たま見ることができる。
 そんな具合なので、ズウの住み処の近くで棒に刺した目玉を振ると瞬く間にズウが飛んでくる。しかしズウを呼ぶ時はしっかり目隠しをしておかなければ、自分の目玉まで取られかねない。目玉を取られるだけならまだしも、皮や体毛、骨までも残さず貪るズウに襲われると、死体はまず出てくることがない。
 オーピントンの古い伝承にこんな話がある。ズウはかつて嘴のある鳥で、風の流れを見張る仕事を神に任されていた。しかしある日、嵐の目をその鋭い嘴で啄んでしまい、嵐の目にあることで難を逃れていた神殿はめちゃくちゃになってしまった。怒った神はズウから嘴を奪い、二度と目玉を啄めなくしてしまったという。
 ズウの好物は目玉だけではない。
 ズウは三本足のものも、生物非生物の見境なく好んで食う。だからオーピントンの周辺では歳老いても杖を使うことはなく、三本足の家具なども見ることはない。ズウは視力が良く、獰猛で貪欲な鳥なのでどんなものでも見逃さないのだ。
 それ故にオーピントンでは、聞き分けの悪い子供を叱るときには「足を切ってズウに食わせる」と言うそうだ。
 ほんの数十年前までは、育ちが悪くいつまでも四つん這いをしている子供の足を切るという口減らしの方法があったと聞くが、それが事実か否かを知るのは、オーピントンの古い住人たちだけなのである。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -