蠍蝗
 

□Some years later...

 目の潰れた軍艦鳥は生きてはいけない。例えそれが片目であろうと、視力を奪われるということは、視力をもって獲物を見定める鳥にとっては致命的なことだ。
 かつて毒薬を用いて一羽の同族の片目を潰した一羽の軍艦鳥がいた。種の繋がりを尊重する群の中で、“彼女”に疑いの目が向くことはなく、“彼女”が群の一員として罰を受けることはなかった。しかし、“彼”としてはそうもいかなかったらしい。
 数年ぶりに私が“彼女”と再会を果たした場所は、一隻の私掠船の船上だった。左耳を欠き、左翼を失い、そして左目を潰された“彼女”は、そこで娼婦のような扱いを受け、私の姿を見るなり昔よりも勢いを失った声で再会を喜んだ。
 船長に頼み出港を遅らせてもらい、“彼女”と話し込む中で、傷のことには触れない私の心中を見透かすように、“彼女”はにやりと笑って「次は右目を潰してやるつもりだ」というようなことを言った。
 “彼女”の年の頃は計算するにおよそ十六歳、軍艦鳥の寿命は二十年ほどと言われている。あと四年、あるかないか、こんな姿で如何にして“彼”に報復を果たすつもりなのか。そもそも、“彼”があのまま戦士として戦い続けたならば、おそらくはもう生きてはいるまい。
 やはり、そんな私の心中を見透かすように「そしたらあいつは私の右耳と右翼と右目を奪いに来るだろうね」というようなことを、“彼女”は益々笑みを深めて付け足した。今まで一度も見たことのない、それは楽しそうな笑顔だった。
 やはり“彼女”は“彼女”のままなのだ。どこか安堵感を覚えた私は、それから少しだけ“彼女”と話をした後、“彼女”に別れを告げて船を後にした。

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