蠍蝗
 

□母の愛には

 リリィ・マルレーンは母である。故に、リリィはリリィが生み出す全てのものを等しく愛さなければならない。それが母としての責任であり、義務なのである。
 だからリリィは、リリィが生み出す全てを愛する。リリィが海辺で豹の爪と肺を持つ鮫を生み出したときもリリィは鮫を愛し、リリィが森深くの泉で睡蓮の頭を持つ大蛙を生み出したときもリリィは大蛙を愛し、リリィが広い荒野の真ん中で鷹の翼と嘴を持つウェルウィッチアを生み出したときもリリィはウェルウィッチアを愛し、リリィが深い谷間で岩竜の心臓を持つ林檎の木を生み出したときもリリィは林檎の木を愛し、リリィが人で溢れる街で犬の魂を持つヒトを生み出したときもリリィはヒトを愛した。
 リリィは母としてこどもたちを平等に愛し、リリィは母としてこどもたちが死ねば悲しみに涙を流し、リリィは母としてこどもたちにランクをつけることは決してしなかった。
 リリィ・マルレーンは母である。しかしながら、それと同時にリリィ・マルレーンは亡き夫の還りを待つ妻でもある。
 夫が還ったとき、リリィはリリィの持つ全てを以ってこどもとして夫を生み出す。その時にリリィのこどもである夫は他のこどもたちを越え、こどもを等しく愛せぬリリィは母から女になるのだ。母から女へ変わるとき、リリィはリリィの持つ全ての責任と義務を放棄し、リリィのこどもたちはリリィの手を離れ、リリィのこどもではなくなる。
 全てを失ったリリィに残るのは最愛かつ最高位のただ一人と成すべき復讐だけである。ただそのときの為にリリィは、幾多のこどもを生み出し、愛し、涙する。

(ランクをつくる)

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