蠍蝗
 

□ツギハギ女王と心の旅人

 いばらの王冠、びろうどのドレス、あおがねの玉座。ツギハギ女王は氷の城に住まわれる。
 ツギハギ女王はうつくしいものがお好き。いつもぎやまんの遠眼鏡で城下を睥睨して、うつくしいものをお見付けになると即座に城に呼び、うつくしいものの一番うつくしい部分をちぎって、高貴な御身に継いで接ぐ。
 ツギハギ女王はうつくしいものからちぎるだけではなくて、ちゃんと代わりのものを用意してお返しになる。
 例えば脚がうつくしかったパン屋の娘には、脚をちぎる代わりに山羊の脚を継いで接いでくださった。山を越えた隣町に住む祖母に会いに行くのが楽になったと、娘はとても喜んだ。
 例えば瞳がうつくしかった見張り台の旦那には、瞳をちぎる代わりにふくろうの瞳を継いで接いでくださった。闇の中でも遠くまで見通す瞳は真夜中の見張りにはちょうどいいと、旦那はとても喜んだ。
 例えば指がうつくしかった服屋の奥さんには、指をちぎる代わりに五匹の蚯蚓蛇を継いで接いでくださった。上下左右、自由自在に動く指は裁縫にはもってこいと、奥さんはとても喜んだ。
 ツギハギ女王はそのように城下のうつくしいものの一番うつくしい部分をちぎっては継いで接いでをなさったので、城下にはもうツギハギ女王を満足させられるうつくしいものはなくなってしまった。それでも引っ切りなしに訪れる旅人の中には稀にうつくしいものがあったので、ツギハギ女王はそういった旅人達を城に呼んで一番うつくしい部分をちぎっては継いで接いだ。 ある日やってきた旅人は、うつくしいものは何一つとして持ち合わせていなかった。旅人は城下を一通り見て回ると、ツギハギ女王に謁見を申し出た。ツギハギ女王は旅人には興味はおありでなかったが、旅人の真摯な態度に謁見をお許しした。
 ツギハギ女王の玉座の前に跪いて旅人は、ツギハギ女王に向かってこう言った。
「女王様、私はうつくしい部分を持ってはいませんが、人間が持っている一番うつくしいものを知っています」
 ツギハギ女王はうつくしいもの以外には何も興味はおありではなく、はじめは旅人の言葉などお聞きにもなりたくなかった。しかし旅人が知っているという一番うつくしいものが何かとても興味をお持ちになったので、旅人にそれは何かと聞き返した。
「女王様、それは心でございます。人間のうつくしい心はどのような宝石よりもうつくしく輝くものなのです」
 旅人は胸を張ってそう言い、そうしてこう続けた。
「そして人間は同時に何よりもみにくい心も持つかとができるのです。大切なのは外見のうつくしさではなく心のうつくしさで、うつくしい心を育てることこそが何よりも貴いことなのです」
 その言葉にツギハギ女王はたいそう感動なされ、その旅人がそれまでに育てたうつくしい心をちぎってツギハギ女王の御心に継いで接がれ、旅人には心をちぎる代わりに生き物の中で一番賢い烏の心を継いで接いでくださった。賢くどのような残忍なことでも易々こなす心は、旅をするには不便がないと、旅人はとても喜び、城中の人間を殺して金銀財宝を奪って去った。
 いばらの王冠、びろうどのドレス、あおがねの玉座。ツギハギ女王は氷の城に住まわれる。
 いばらの王冠(奪い取られて安く売られた)、びろうどのドレス(引き剥がれて一糸纏えぬ)、あおがねの玉座(鋳熔かされて剣に変わる)。ツギハギ女王(自慢の御心も撲り殺され見る影もなし)は氷の城に住まわれる。

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