06


病室にお粥を届けてから乱菊さんと十番隊に帰れば、何故か彼女は私の弁当を広げて険しい顔をしていた。桃ちゃんは何故か私がお粥を手に訪室するなりかなり警戒した様子だったが乱菊さんが私がほぼ作ったと口添えしてから安堵した様子で食べていたし、みんな一体どうしたのだろうか。きっと桃ちゃんは優しいから私の手間を心配していたのだろうと勝手に納得していると、乱菊さんが立ち上がった。

「無理だわ私には…。隊長隊長〜!」

「うるせぇっ!」

「いいから早く来てくださいよー!」

少し離れた先にある日番谷隊長の執務室に声が届くというのがすごいところだが、日常茶飯事なのだろうか。呼ばれた日番谷隊長は不機嫌そうな顔で入室するなり乱菊さんを睨みあげた。

「上司を呼び出すな!お前が来い松本!」

「なんだかんだ言って来てくれるじゃないですか!あれれ?それとも名前がいるからですかね〜?」

「…!?、余計な事言ってないで早く要件を言え!」

思いきり日番谷隊長に頭に拳を落とされている乱菊さんの姿はもう見慣れたものである。最初こそ痛そうだとあわあわさせられたが日番谷隊長も良い人だから力を抜いているのだろう。そんな彼に割り箸を差し出す乱菊さんは顔に悪い笑みを浮かべていた。

「これ名前の手作りなんですよ、隊長」

「…そ、そうか、随分と…前衛的だな」

前衛的という言葉の意味はわからないものの褒めてくれているのだろうと判断して私は笑顔で頷いておいた。乱菊さんに泥だんごの屑だとかゴミだとか言われて失っていた自信がようやく戻り、自然と頬も緩むというものである。朽木隊長にもいつかこういう言葉がもらえたらいいのだけれど。

「乱菊さんにゴミは捨てろとか言われれたんですよ、ひどいですよね!?」

「そうだな、まぁ…捨てるくらいなら俺が貰ってやってもいい」

「え!?やったぁー!私、いや俺は日番谷隊長みたいな優しい男になります!」

私が目を輝かせれば、乱菊さんがさもこの展開がわかっていたかのように着々と食事の準備をしていた。お茶はわかるのだが、何故か横に置かれている黒いビニール袋や胃薬の意味はよくわからない。日番谷隊長は胃が弱いのだろうかと思いながら見守れば、隊長はぎこちなく卵焼きを掴んでいる。

「隊長!それ自信作の卵焼きですよ!」

「…卵がなんでこんな黒いんだ?」

「うーんたぶん辛党の朽木隊長の為にお醤油たくさん入れて焼いたからですかね?」

私が首を傾げていると、日番谷隊長は恐る恐るといったようにゆっくり卵焼きを口に運ぼうとしていた。何をそんなに警戒しているのだろうか。そう思って聞こうとするより先に乱菊さんが口を開いた。

「隊長、どうです?」

「うっ…!?」

感想を聞こうと咀嚼する姿を見つめていたが、隊長はひと噛みするなりすぐにお茶を一気飲みし始めた。喉にでも詰まったのかと驚いたが、隊長は何故か胃を押さえながら乱菊さんの肩を思いきり叩いている。今度はどうやら本気だったらしくかなり痛そうな音がしたが叩かれた乱菊さんは必死に笑いをこらえている様子だった。

「お前な…!」

「ぶっ…くく、あはは痛いじゃないですか、隊長食べてみたいかなって思ったのに〜」

「俺に毒見させただろ!」

「なんのことかしらね?」

手際よく弁当を片付ける乱菊さんとまだ口元に手をあてている隊長を見て、私は気付いてしまった。まさか、と内心では否定しつつも私は乱菊さんによってゴミ袋に入れられた弁当を恐る恐る指差す。

「…もしかして、まずい…ですか?」

「あ、ようやく気付いたの?見た目で気付きなさいよ」

「…松本も上手くないが教えてもらえ」

上手くないとは余計だと憤慨する乱菊さんに髪を掴まれている日番谷隊長の言葉が私には決定的なダメージだった。日番谷隊長が遠回しにそういうのだから、これは恐らく事実なのだろう。男は泣かないんだと言い聞かせながら、逃げるように二人に背を向けて六番隊へと走ったが、このまずいというレッテルを貼られたお弁当をどうしようという現実からは逃げれそうにもない。


06:まさかのまさか



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