05


乱菊さんから桃ちゃんの体調悪化を知らされ、私は本日も早起きして作った朽木隊長と彼女への弁当を落としかけた。なんでも卯ノ花隊長によればここ3日ほど謎の嘔吐と腹痛に苦しんでいるとのことだが、大丈夫なのだろうか。私は昨日も一昨日も、桃ちゃんに忙しいからと五番隊隊士を通じてお弁当を断られていたのでようやく知った体調不良に合点がいった。それならばとりあえずお粥がいいだろうと考え、今日は乱菊さんとお見舞いの昼餉を作っている。


「ねぇ、そういえば結局どうなのよ。あんたの恋と弁当作戦」

「実は、1日目はいらないって言われながらも受け取って頂けたんですけど、何故か一昨日からは阿散井副隊長に門前払いなんです…」

鍋に入れた米をかき回しながら溜息を漏らせば、乱菊さんの苦笑いが返ってきた。まぁ阿散井副隊長に渡してもらえるようにと弁当を押し付けてはいるのだが、ライバルというのは改めて厄介な存在である。まぁその方が燃えるのだけれど。実は今日こそ朽木隊長に直接届けるべく阿散井副隊長に出くわさない配送ルートを緻密に考えていた。

「恋次も朽木隊長が変な道に行かないように必死なのね可哀想に…」

「私っ…俺が変な道なんですか!?こんなに愛してるのに!?」

「絶対あんた女で行くべきよ。大体ね、男を好きな訳…って何入れてるの!」

乱菊さんに慌てて止められたことに、私は不思議に思いながら手元のその缶を見せた。

「何って、桃缶ですよ」

「馬鹿じゃないの!?入れたらまずいに決まってるでしょお粥じゃない!」

「え?でも桃ちゃんは桃好きだし」

「もうっ、私に貸しなさい!」

私から桃缶を奪い取った乱菊さんは慌てて数個入った桃をお粥から取り出して味見し直している。思いきり顔をしかめては塩と卵を足しているがそんなにまずかっただろうか。

「…名前、朽木隊長へのお弁当見せなさい」

「やだなぁ、名前じゃなく俺はもう男装名ですよ乱菊さん」

「灰猫の出番かしらね」

「出します出します!」

慌てて斬魄刀へと伸びた乱菊さんの手を止めて紙袋から桃ちゃんと朽木隊長への弁当を取り出した。睡眠を犠牲にした上での超大作だから見られてもいいのだが、ちょっと嬉し恥ずかしいというものだ。私は弁当の蓋を開けながら大袈裟に効果音をつけた。

「じゃじゃじゃーん!はい!」

「…えーっと?この謎の桃色の円形は?脳かしら?」

「それは桃!キャラ弁!」

「……じゃ、これは光化学スモッグ?」

「なんで!?どうみてもワカメ大使!」

あんまりにもひどい言われようである。大体、光化学スモッグなんて見たことあるのか。そんなものを再現できるわけがない。とりあえず私は唇を尖らせながら美的感覚の優れない彼女に丁寧に内容を説明した。今日は卵焼きときんぴらごぼう、肉じゃがが入っている。

「…これ、肉じゃが?これが卵?」

「美味しそうでしょ!桃ちゃんのならお粥あるし食べていいですよ」

「どうみても粉砕した泥だんごだわ…」

何故か頭を抱えだした乱菊さんに私はとりあえず割り箸を差し出しておいたが一瞬の躊躇もなく断られてしまった。遠慮しなくていいのになぁ、なんて思いながらとりあえず箸を直す。何故か乱菊さんは真剣な顔だった。

「私も上手くないけど仕方がないわね…こうなったら明日から特訓開始よ」

「え?何をですか?乱菊さんが?」

「この悲惨な料理をあんたが特訓するに決まってるでしょ!こんなんじゃ朽木隊長振り向くどころか付き合うまでに死ぬわ!」

朽木隊長が死ぬとはどういうことですか、と聞きたかったのだが有無を言わさない目力に圧倒されて私はとりあえず必死に頷いた。乱菊さんがすごい怖い、私何かしただろうか。私は乱菊が手際よくお粥を完成させるのを隣で見ながら半泣きで弁当を包み直した。


05:お粥から始まる疑惑



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