ホストクラブ短編 | ナノ



京介・峰岸斗真の場合


俺には母親を心底可愛がっている父親と、実際年齢も若いがいつまでも少女の感覚でいる母親、そしてイタズラ好きな兄がいる。
父以外は話すと疲れるので実家に帰りたくないのが正直な所だ。

「何で連絡くれないのよ!」

実家に帰ってきた俺に母が高くて響く声を上げる。

「毎日メール送ってるのに、全然返事くれないじゃない!」

「毎日返信できないですよ…仕事してますし」

「仕事ってホストでしょ?他の女には優しくしてママには優しくしてくれないんだ!」

もうもう!と俺の腕をポカポカ叩いてくる。今時こんな事をする人がここに居るのが恐ろしい…。

母は決して心配性な訳ではない。
ただ自分がやった事に何の反応もない事が嫌なだけで、所謂「構ってチャン」というやつだろう。

「お兄ちゃんは毎日返信くれるのに…斗真はママの事嫌いなのね」

「涼(兄)と一緒にしないでください」

「なによー、せっかく美形に産んであげたのに、こんなに冷たい子に育つなんて…うう…」

もう、どう返したら良いのか分からない…。
俺はこの家を出るまでずっとこの母親と生活を送っていた訳だが、生まれてこの方この母の行動は理解できない。
そもそも疾うに成人を過ぎている子供に、母親が毎日メールを送ってくる事自体がおかしいと思わないのだろうか。

「斗真、お母さんに謝りなさい」

「……」

そしてこの父である。
父は家族の中では唯一話の通じる人だが、母親が絡むとそうはいかない。
年が離れてる母の事を凄く可愛がっているのだが、ただ甘やかしてるだけという事を本人は自覚していないから厄介なんだ。

「すみません…」

結局、俺はここで謝らない訳にはいかなくなる。
内心、思う事は山のようにある訳だが、それを言えば倍になって帰ってくる上に、父親の“甘やかし”が加わって面倒な事になる。
過去に何度かそういう経験があるだけに、それだけは避けたい。

「所で、涼は帰ってないんですか?」

「お兄ちゃんはお仕事だって。あ、そうよ!何でお兄ちゃんのお店辞めっちゃったの!?」

「…特に、理由はありません」

世莉さんに会いたかったから…と言えば「紹介して!」と騒ぎだすか、「ママよりその人の事が大事なのね!」と騒ぎだすか…どちらにしても騒ぐのは間違いないだろう。
ましてや世莉さんが男で俺が心底愛してるなどと言えば気絶でもしかねない。

「まさか、好きな子がそのホストクラブに通ってるとか?彼女なの?」

「何でそうなるんですか…」

そして、案外カンが働くという…。

「彼女ができたなら紹介してよ?ママ、怖い子嫌だし」

「誰を連れてきても納得してくれないんじゃないですか?」

「そんな事ないわよ!ねぇ、パパ?」

「そうだな」

日頃、無口な父親もこの母には逆らえない。

こうして親を見てると、自分は本当に二人の子なのかと疑いたくなる。
母に似てないのは確かだが、俺は父のように好きな人を甘やかしたりしない…はずだ。

「ああ、斗真に彼女ができるのは嫌だけど、孫は見たいわぁ」

(嫌って言ってるし…)

はぁ…疲れる…。

だから実家に帰るのは嫌なんだ…。




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