ホストクラブ短編 | ナノ



世莉・岡本京介の場合


久々に実家に帰ってきたオレに、父親が言ったセリフがコレだ。

「おめぇ、まだホストなんてバカな事してんのか…?」

「だったら何だよ、別にいいだろ」

「何だその口の利き方は!髪なんか伸ばしやがって、おめぇはオカマか!」

「うるせぇな、自分に毛がないからって僻むんじゃねぇよ」

「何だと!?俺はふさふさだ!」

「どこがだよ!鏡見てから言えよな!」

うちの親父は所謂昔ながらの頑固オヤジで亭主関白。昼間健康に働いて家庭を守るのが男の役目だと思い込んでるような奴だ。
酒は飲むし煙草は吸うし、大の祭り好きで近所付き合いもいい。
だが、コイツはオレが中学の時に煙草を吸ってるのを知って、その場に居た友人も一緒に殴るような男でもある。
お蔭で「岡本オヤジは怖い」などと言われ、みんな家に来たがらなかった苦い過去があるのだが、その中には当時付き合ってた彼女もいて下手に家に呼んだもんなら「早く帰れ」と圧をかけるんだ。

まあ、こんなオヤジだからオレに自由なんかあるはずもなく…家を出た理由の大半はこのオヤジのせいだったりする。

「でもアンタ、ずっとホストやってく訳じゃないんでしょ?」

会話に入ってきたのは何故か同じ時に帰省した姉。
名前は「芽衣子(めいこ)」、イケメン好きのドM女だ。

「先の事なんか考えてねぇよ。オレまだ二十歳だぜ?」

「だからってお父さんみたいにハゲてもホストやるの?誰が指名してくれるのよ」

「ハゲねぇし!」

「バカねー、ハゲは遺伝するのよ?ふふ」

「ぐっ…」

傍に居たオヤジが「俺はハゲてねぇ!」と言うのを、オレと芽衣子は無視をする。明らかに無駄な抵抗だからだ。

(くっそー、何て嫌な事を言う女なんだ…!)

親父の毛の薄さに内心怯えてるのは確かだ。
美容師に毛根の事を相談した事があるくらい、今から将来の事を考えると怖い所ではある。

「はっ…どうせ芽衣子だってオヤジみたいなハゲたオヤジと結婚するんだぜ」

「それはない!ありえない!」

「どうだか、女は父親似の男と結婚するって言うからな」

「あんた、嫌な事言うわね…」

「お前もな!」

芽衣子と話すといつもこんなだ。
イケメンの前ではぶっりこでドMのくせに、オレに対して偉そうなのが腹立つ。

「所でアンタ、女の子たぶらかして子供なんて作ってないでしょうね」

キッチンからつまみを持ってきた母親が、息子を全く信用してない目で言ってきた。
なんて嫌な目だ…。

「ある訳ないだろ、オレは硬派なホストなんだ」

「「バカじゃないの?」」

芽衣子と母ちゃんの声が重なる。
この家の女はどうしてこうも優しくないんだろう…。

「京介、彼女いんの?なぁ、なぁ」

今度は小学生の弟が目をキラキラさせて嫌な質問をしてくる。
それを聞いた母ちゃんと芽衣子が「いる訳ないじゃん」とゲラゲラ笑いだした。

(確かに彼女はいないけど、そう思われてるのもムカツク…)

「つか、兄ちゃんって言えって言ってんだろ!」

「嫌だ!」

京介のバカー!と騒ぎ立てて、何故か弟はこの場を立ち去った。
一体なんだったんだ…。

「じゃあ、アンタも私の事お姉ちゃんって言いなよ…」

静かに芽衣子と視線が合う…。

「え…嫌だ」

「なによ!はぁ…駄目ね、そんなだから彼女もできないのよ」

「作ろうと思えば簡単にできるし、今は必要ないだけだ!」

「どうだか、チビのアンタを好きになってくれる人がいるのかしらね〜」

「チビじゃねぇ!」

「じゃあ、ハゲよ、将来ハゲ」

「てめぇ…」

ハゲに反応したオヤジがまた「ハゲてねぇ!」と言うのを、母ちゃんも一緒になって無視をする。最早お約束だ。

「あーっ、くそっ!」

ぐびぐびと一気にビールを流し込む。そうでもしないとやってられない。

「はぁ…」

だから実家に帰りたくないんだ…。




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